弁証論治:

0138:潰瘍性大腸炎後の不妊治療の弁証論治

症例集→潰瘍性大腸炎の回復後の不妊治療(38歳出産)【case:0138】

・問診

35歳 女性 157センチ53キロ 血圧110-60

主訴:不妊

クーラーや張るに体調が悪化

朝は寝起きが悪く、深夜も調子が悪い

秋は一番体調が良い

入浴後はのぼせてしまって体調が悪い

気を使ったあとは調子が悪い、旅行のあとは体調が良い

風邪を引くと体調が悪い

便秘や下痢をしやすい

食欲は普通、30才頃から落ちている 

食事は朝7じ、昼12時、夜が19時から22時と不規則

食事時間は15分程度、空腹感はよくあり、よくかんでいつも美味しく思う

食後にお腹が張ったり胸焼けは時々する。

飲酒は月に1-2回

飲水は毎日600cc以上ぐらい

身体がお尻から冷える感じがする

疲れると下肢にむくみがでる

口や喉が渇くときは時々ある、苦かったり違和感はない。

大便は3日に1回、お腹が張って辛いことはよくある。薬はない。

便が出きらない感じはよくある、コロコロ便。付着することはめったにない

小便は1日7回、残尿感はよくある、尿切れが悪いことはよくある、

尿の色が悪いことや、夜間尿はめったにない

睡眠は寝つきはよく、眠りも深く、寝起きは普通で、

疲れが残ることがよくある

・・婦人科の状況について

初経は12才、周期は28-32日、期間は4-5日

生理がくると生理前にいつもいらいらし、生理初期に下腹部に鈍痛がある。

濃血で生理の量は普通

28才から妊娠希望

高プロラクチン血症、無敗欄月経、小さいがチョコレート嚢胞があると言われている。

タイミング指導や人工授精を数回行ったが、妊娠しない。

最近生理痛が軽くなっている、若い頃は薬を飲んだが最近は不要

・時系列の問診

20才 体重 45キロ (なんとなく、だんだん増えて35才で53キロ)

22才、社会人になって腰痛が始まる

20代前半 仕事がとても忙しくストレスも多く潰瘍性大腸炎となり通院、
  ペンタサ服用で症状がかなり落ち着く

25才結婚

28才 妊娠希望 
 潰瘍性大腸炎が緩解し、このころには定期検査も不要となった

30才 不妊治療開始

35才 生理痛が軽くなってきた。

・五臓の弁別

・・肝
気を使ったあとは調子が悪い(肝鬱の可能性)

仕事が忙しくストレスで潰瘍性大腸炎となる(肝鬱の可能性)

左関上やや硬い

臍の下半分もりあがり(肝鬱の可能性)

右臨泣やや動きが悪い

・・心

心下つまりと塊あり

神門はれ

右内関陥凹

左TH4 陥凹 冷え

・・脾

便秘や下痢をしやすい(脾虚の可能性)

食後にお腹が張ったり胸焼けは時々する(脾虚の可能性)

大便は3日に1回、お腹が張って辛いことはよくある。薬はない。

便が出きらない感じはよくある、コロコロ便。付着することはめったにない

脾募薄くアリ

臍の下半分もりあがり(脾虚の可能性)

左大都と冷え陥凹

右足三里やや可能

左公孫陥凹

左三陰交奥に冷え

脊中から接骨にかけて 冷え

左脾兪、胃兪 陥凹

・・肺

クーラーで体調悪化 (衛気が弱い可能性)

皮膚全体にざらつきアリ

列缺 ややかげり

大椎周り 盛り上がり、細絡あり

身柱の夾脊 陥凹(特に左大きい)

身柱の左夾脊 冷え

・・腎

クーラーで体調悪化(陽気不足の可能性)

朝は寝起きが悪く、深夜も調子が悪い(腎虚、陽気不足の可能性)

気を使ったあとは調子が悪い(腎虚の可能性)

身体がお尻から冷える感じがする(腎虚、陽気不足の可能性)

疲れると下肢にむくみがでる(腎虚の可能性)

小便は1日7回、残尿感はよくある、尿切れが悪いことはよくある

疲れが残ることがよくある

社会人になって 腰痛が始まる(腎虚の可能性)

仕事が忙しくストレスで潰瘍性大腸炎となる(腎虚の可能性)

左尺硬い 

関元抜け

裏肝の相火アリ

下腿少しむくみあり

左外関 冷え、動きが悪い

左復溜冷え

左水泉冷え

右次髎つまり

・・気虚

入浴後は長く入らなくてものぼせてしまって体調が悪い

(気虚の可能性、器が小さい可能性)

脈全体に輪郭があまい

舌 色褪(淡紅から淡白)

歯痕、胖嫩

皮膚全体にざらつきアリ

・・瘀血
左舌辺に瘀斑、舌裏怒脹あり、
少腹急結左少しあり

・病因病理

社会人になり、腰痛が始まり、とても忙しい仕事でストレスも多く、潰瘍性大腸炎になってしまっている。

腎気に負担がかかたうえに、精神的なストレスも多く肝気をはりがちであったため、下焦に負担がかかり、 潰瘍性大腸炎の発症となったのではないかと思われる。

幸い、状態が良く28才には緩解、定期検診も不要となったので、妊娠を希望され始めている。

しかしながらなかなか妊娠が成立せず、不妊治療を開始するも5年経過し、当院への初診となっている。

現時点で小便に残尿感があり、尿切れが悪く、疲労感が残ることがよくある、疲れると下肢がむくむなど、 腎気の弱さは明瞭である。また脾気も便秘や下痢をしやすく、便が出きらない感じがよくあり、食後のお腹のはりなど があり、背部腧穴の脾兪、胃兪の陥凹、三陰交の深い冷えなど脾気の弱さもやはり明瞭である。

そのうえお風呂に長く入らなくてものぼせてしまう、歯痕胖嫩、皮膚全体のざらつき感などが あり、督脉を拝見すると、身柱を中心に夾脊に大きな陥凹、脊柱から接石にかけても冷えというように、 肺気を中心とする上焦、脾気を中心とする下焦にも弱さがうかがわれ、全身の気虚が明瞭である。

・弁証論治

弁証:脾腎虚を中心とした全身の気虚

論治:益気補腎 益気補脾 補気

・治療指針

脾腎を中心に全身を緩やかに補い、全身の気虚を救う。 ある程度バランス良く全身の気虚が救われてきたら、腎気を中心に下焦を補い 妊娠を成立させ出産まで導く

・治療経過

28才 妊娠希望 
 潰瘍性大腸炎が緩解し、このころには定期検査も不要となった

30才 不妊治療開始

35才 生理痛が軽くなってきた。
    ビッグママ治療室初診

1年後 体調も落ち着き、仕事の調整も出来たので体外受精をはじめる
  1回目 採卵 空砲
  2回目 排卵済み
  3回目 採卵 空砲
  4回目 2個採卵 
      一個移植 妊娠せず、一個受精せず
      採卵出来ず
  5回目 採卵 空砲
  6回目 採卵ー移植ー妊娠せず
  7回目 採卵ー胚盤胞凍結ー次周期移植 妊娠せず
  8回目 採卵 採卵ー空砲
  9回目 採卵ー空砲
  10回目 採卵ー桑実胚で培養中止

3年後 
  11回目 採卵 4分割で移植ー妊娠

38才にて無事に出産 おめでとうございます(^^)

体調が落ち着き、体外受精をはじめるものの、なかなか上手く行かず 結局11回の採卵周期のうち、5回空砲、1回排卵済みという採卵自体がきちんと できたものが5回 移植は3回。採卵11回、移植3回、そのうち1回で妊娠している。

潰瘍性大腸炎という腎気に深くかかわる病気の既往歴のせいか、体調そのものの せいなのかは判然とはしないが、ご本人の努力、薬の負担の少ない体外受精での挑戦のおかげで、空砲が多い方ながらスムーズに採卵を継続することができ、胚移植の回数は 少ないものの妊娠につながったものと思われる。