弁証論治:

0000:頭痛、不妊、動悸と咳の弁証論治

・問診
42歳、女性 会社員
身長:165cm、体重:55kg、血圧:100/65
家族構成:夫

肉親の病気の遺伝的傾向:高血圧、糖尿病

主訴・・・①頭痛、②不妊

【主訴について】

①頭痛・・・社会人になってから時々、頭痛を感じるようになった。頭痛は季 節の変り目に起こることが多かったが、2~3年前からは少し頻度が多くなっ た。そして数ヶ月前からは毎週末のように頭痛がするようになった。思い当た る原因は仕事が忙しく、ストレスも多かった。仕事が少し落ち着いたら頭痛も 少し減った気がする。頭痛は頭全体が痛いが、前から側頭部のみのときもあ る。全身的な体調の変化と合わせて変化するかはよく分からない。頭痛が強い 時は市販薬を飲んでしのぐ。
肩こりも昔からある。

②不妊・・・タイミング指導、人工授精数回を経て、体外受精するも妊娠に至 らず。半年ほど八味丸を服用したが、体調的には何も変化を感じなかった。

【同時に起こるようになった体調の変化】

老眼のせいか目が疲れやすくなった。

【その他の治したいこと】

首から背中のこり・・・昔から肩甲骨の間が凝ることがある。

(問診で出てきた症状)

動悸・・・40歳くらいから動悸が時々するようになる。朝夜、季節など関係性 は無いが、動悸がするとき咳が一緒に出ることが多い。動悸に咳が伴わないこ とも時々あるが、動悸がするときはほとんど咳が胸からこみ上げるように出 る。

胃痛・・・昔から胃痛が時々あり、慢性胃炎と言われたこともある。

・・ふだんの状態について

(体調の悪い変化)
風邪の治りかけのときに頭痛、目の疲れ、首から背中にかけて痛む

(体調の良い変化)
記載なし

(風邪)
記載なし

(食事)
食べる量は普通、40歳くらいから食欲が落ちている。
食事時間は、朝7時、昼12時、夜20時。
15分くらいで普通に噛んで食べる。
食事前の空腹感は時々。
食事は、よくおいしく食べれる。
食後にお腹が張ったり、胸焼けは、時々。
間食は毎日。

(水分)
水分摂取は1日に200ccのコップで5杯以上、計1000cc以上。

喉の渇きは時々。
喉に違和感を時々感じる・・・動悸がするとき胸が詰まって咳が出る。ここ 1ヶ月ほどは仕事中に多いが、家で寝ていても出ることが時々ある。いつから かははっきりしないが、去年の今頃もあった気がする。

(飲酒)
ほとんど飲まない。

(タバコ)
記載なし。

(大便)
1日に1回出る。
便秘でおなかが張ってつらいことは時々あるが、便秘薬を飲むことは無い。
便が出切らない感じは時々。
便はバナナ状、コロコロ。
便器に付着することはめったに無い。
臭いは普通でよく臭う。

(小便)
昔から1日6回
残尿感、尿切れが悪いことはめったに無い。
夜間排尿は無い。
尿の色が黄色いことは時々。

(睡眠)
就寝0時、起床6時
昔から、寝付きは悪く、眠りは浅く、寝起きは普通。
翌日に疲れが残ることは、ここ1~2年よくある。

【婦人科の状態】

初経11歳。
生理周期は28日型で7日間。
30代の頃は生理周期が30日周期の10日間ぐらいだった。
生理1週間前くらいから胸の張りとイライラがあり、胸の張りは生理が来ると
落ち着き、イライラは生理1~2日目くらいまで続く。
生理痛は昔からほとんど無い。

生理血の色は薄く、サラサラで小さい塊が混じる。
生理の量は少ない。
生理2日目が量が多い。

【これまでにかかった大きな病気】
特になし。

・時系列の問診

20歳・・・会社員になってから、肩こり、頭痛を感じるようになる(現在ま で)。
    胃痛が時々するようになる(現在まで)。

35歳・・・結婚。

39歳くらい・・・不妊治療(タイミング、人工授精)を受け始める。
    頭痛がよくするようになる(現在まで)。

40歳くらい・・・動悸が時々するようになる(現在まで)。
    動悸する時は咳が一緒に出ることが多い(現在まで)。

41歳・・・体外受精に挑戦するようになる(現在まで)。
    翌日に疲れが残るようになる(現在まで)。

42歳春・・・八味丸の服用を始める。

42歳夏・・・仕事が忙しくなる。
    毎週末頭痛がするようになる(現在まで)。

42歳秋現在・・・八味丸服用を止める。
    頭痛、時々動悸する。

・体表観察

・・脉診
右尺 中位で弦

・・舌診
舌質 淡白~淡紅
舌苔 全体に白苔が厚めで粗い
戦あり
歯痕あり
舌裏怒張 あり

・・腹診
心下から季肋際に掛けて つまりきつい
脾募 あり
肝の相火 あり
裏肝の相火 あり
少腹急結 なし
関元 抜け

・・経穴診
百会 熱感
右神門 硬結
右外関 弛み
左足三里 弛み
右三陰交 弛み
右臨泣 冷え
右太衝 冷え
足は三陰交くらいから下が全体に冷え

・・背候診
左肺兪 冷え
神道から中枢くらいまで冷えで、冷えの中心は至陽
左胆兪 動き悪く、平板
左脾兪 弛み
右胆兪 弛みの中に筋張り
右脾兪から右三焦兪まで腫れて盛り上がり
右胃兪 その張れの中で弛んで二行

・五臓の弁別

・・肝
動悸がするとき胸が詰まって咳が出る。
ここ1ヶ月ほどは仕事中に多いが、家で寝ていても咳が出ることが時々ある。
昔から、寝付きは悪く、眠りは浅い
生理1週間前くらいから胸の張りとイライラがあり、胸の張りは生理が来ると
落ち着き、イライラは生理1~2日目くらいまで続く。

20歳・・・会社員になってから、肩こり、頭痛を感じるようになる(現在ま で)。
    胃痛が時々するようになる(現在まで)。
42歳夏・・・仕事が忙しくなる。
    毎週末頭痛がするようになる(現在まで)。

戦あり
舌苔 全体に白苔が厚めで粗い
心下から季肋際に掛けて つまりきつい
肝の相火 あり
裏肝の相火 あり
百会 熱感
右臨泣 冷え
右太衝 冷え
神道から中枢くらいまで冷えで、冷えの中心は至陽
左胆兪 動き悪く、平板
右胆兪 弛みの中に筋張り

・・心
40歳くらい・・・動悸が時々するようになる(現在まで)。
    動悸する時は咳が一緒に出ることが多い(現在まで)。

・・脾
頭痛は季節の変り目に起こることが多かった
食後にお腹が張ったり、胸焼けは、時々。
便秘でおなかが張ってつらいことは時々あるが、便秘薬を飲むことは無い。
便が出切らない感じは時々。

舌苔 全体に白苔が厚めで粗い
脾募 あり
左足三里 弛み
右三陰交 弛み
左脾兪 弛み
右脾兪から右三焦兪まで腫れて盛り上がり
右胃兪 その張れの中で弛んで二行

・・肺
左肺兪 冷え

・・腎
半年ほど八味丸を服用したが、体調的には何も変化を感じなかった。
風邪の治りかけのときに頭痛、目の疲れ、首から背中にかけて痛む

39歳くらい・・・不妊治療(タイミング、人工授精)を受け始める。
    頭痛がよくするようになる(現在まで)。
41歳・・・体外受精に挑戦するようになる(現在まで)。
    翌日に疲れが残るようになる(現在まで)。

関元 抜け
右外関 弛み
足は三陰交くらいから下が全体に冷え
神道から中枢くらいまで冷えで、冷えの中心は至陽

・・気虚
歯痕あり

・・瘀血
生理血は小さい塊が混じる。
舌裏怒張 あり

・病因病理

会社員になってから肩こり、頭痛を感じるようになり、胃痛も時々起こるよう になったことから、肝気を張って仕事を頑張り、肝鬱を起こしやすくなってい たことが窺える。

39歳くらいから不妊治療を始めて、頭痛の頻度が増えた。翌年には動悸がする ようになり、動悸がすると咳が出ることが多かった。これは不妊治療により、 肝気がより立ちやすくなって頭痛が頻発し、上逆しやすくなった肝気により、 心が熱を持ちやすくなり、動悸がするようになったと考えられる。心の熱は、 同じ上焦に位置する肺にも影響して、咳が起こるようにもなったと思われる。

41歳で体外受精にステップアップすると、翌日に疲れが残るようになった。42 歳夏の仕事が忙しくストレスを強く感じていた時期には毎週末のように頭痛が するようになった。これは体外受精により、腎気への負担が大きくなってい た。そんな中、仕事でストレスを強く感じて、肝鬱がいつも以上にきつくな り、腎気が弱っているために週末でも肝気の収まりが悪いために、毎週末頭痛 が起こるようになったと考えられる。

お体を拝見しても、舌苔の粗さ、心下のつまりのきつさ、肝の相火、百会の熱 感、右臨泣と右太衝の冷え、足先の冷えなどから、気の上逆がきつく、上実下 虚の状況が窺える。そして関元の抜けから腎気の弱りはあるものの、腎兪三焦 兪にはそれほど反応は出ていない。むしろ脾兪、胃兪の状態から、予想以上に 脾胃の虚損がきついのではないかと思われる。そのため八味丸を半年ほど服用 したにもかかわらず、頭痛や動悸など体調にそれほど変化を感じなかったので はないかと考えられる。

つまり腎気は不妊治療や年齢的な要因もあり、それなりに困窮していることが 窺えるが、それよりも脾気の虚損がきつく、肝気を暴走させやすくしているの ではないかと考える。

・弁証論治

弁証:脾虚、肝鬱、腎虚

論治:健脾、疏肝理気、補腎

・治療指針

肝気は軽く払いながらも、脾気を立てることにまず重点を置き、肝気を払わな くても納まるような好循環を作りたい。

また治療を進めながら、腎気の状態を体表観察より窺い、腎気の弱りが表面化 してくるようであれば(この可能性が高いかもとも思う)、腎気を立てる治療 も加えたいと考える。

・生活提言

ここ数ヶ月、ストレスを強く感じながらお仕事をされていたために、頭痛が頻 発していて、精神的にも肉体的にも大変なことと思います。ただお仕事の忙し さがひと段落着き、頭痛もそれに伴い少しましになったとのことですので、や はり過労による頭痛だと思われます。このあたりで少し体を休めてあげられる といいですね。

そのためにはまずしっかりと睡眠をとることが大切です。ここ数年は翌日に疲 れが残りやすくなっていますので、今の睡眠時間、睡眠の質では1日の活動量 を補えていないことが窺えます。お仕事がお忙しいことと思いますが、もう少 し早く就寝できる日を増やすといいかと思います。またすぐに眠りが深くなる のは難しいかと思うのですが、寝る前にパソコンやテレビなどで目を使いすぎ ないようにすることも重要です。お体が養われてくれば、しっかりと眠れる日 も多くなってくると思います。

次に大事なのが胃腸を健やかに保つことです。お身体を拝見すると、問診で窺 う以上に胃腸に負担が掛かっているように見受けます。よく言われることです が、暴飲暴食、甘いものの間食、夜遅くの飲食など気を付けてください。

最後に体を養うのには適度に体を動かすことも大切です。○○さんは、不妊治 療に加え、お仕事もを頑張っていらっしゃるので、気が立ちやすい状態です。 その昇った気を下に引き降ろし、子宮に集めてあげるようなイメージで、散歩 など軽く手足を動かす運動ができると肩こりにもいいのではないかと思いま す。