弁証論治:

0124:32才排卵障害でもステップアップはしない弁証論治

症例集→32歳、排卵障害でもステップアップはしない(33歳出産)【case:0124】

・問診

32才 会社員 48キロ 164センチ

主訴:不妊

結婚して2年、妊娠を希望して1年 妊娠しない

病院では多膿疱性卵巣症候群といわれた。そのほかの異常は夫婦共にない

クロミッドとブレドニンで排卵誘発しタイミングで1年たつが妊娠しない。

夫が不妊治療の積極的ではないのでこれ以上のステップアップは望まない

・・普段の状態について

睡眠不足で体調悪化

大食、規則的な食事で空腹感はよくある、食事はいつも美味しく

腹脹、胸焼けはない。間食は毎日、飲み物は1000cc以上(よくしゃべる仕事なので)

口、喉の渇きはよくある。違和感なども時々ある。

便通は1日1回 出きらないことは時々 太い多めの便 便器につくことはめったにない

小便は一日7回 尿切れ、色など問題ない。夏になるとよく水分を飲んで朝方おきることがあるが最近(10月)はない。

寝つきは普通、夢をよくみる、疲れが残ることはめったいにない

・・婦人科について

生理周期は不安定で初経以来3ヶ月から6ヶ月に1回の生理

不妊治療で排卵誘発をするようになって33-35日

母親も同じような生理周期だったが自然に24才と25才で妊娠出産

生理前高温期に胸が張り腰や下腹が痛む→高温期に納まる

生理の色は濃く、小さい塊、膜、濃血などがまじる。

・時系列の問診

赤ちゃんの頃 右股関節脱臼だった(大きな問題なく経過)

15才初経 3ヶ月から6ヶ月に1回の生理(不妊治療で誘発が始まるまでこの状態)

大学生の頃 体重53キロ 運動していた 便秘だった

社会人 体重48キロになって便通もよくなった

31才 不妊治療開始 薬で排卵誘発をして33-35日ぐらいで排卵があり生理がある

31才(現在)
  薬で8回、排卵誘発をしているが妊娠しない
  歩きすぎると右股関節痛い

・体表観察

・・舌診
淡紅から淡白
戦アリ
舌裏怒脹なし

・・脉診
両尺細い

・・腹診
心下つまりあり 動悸あり
腹部全体温
脾募薄くアリ
左肝の相火あり 
左裏肝の相火 あり
季肋際めくれ
左中注 つまり少しあり
関元やや抜け

・・経穴診
両列缺 こそげ
右太淵腫れ
右外関動きが悪い
右陽池 冷え
右神門小さい硬結

下肢ふくらはぎの内側(腎経、肝経ライン)静脈瘤アリ
右臨泣つまり
大腿部 胆経突っ張り
両 三陰交 こそげ
左陰陵泉硬い
両復溜 こそげ
左曲泉筋張り
左足三里 こそげ

・・背候診
大椎を中心にして肩井、身柱のラインまで大きく盛り上がり、着色あり
 (肩こりは感じない)

左肺兪陥凹
左 胃兪を根にして膵兪から胃兪まで細い筋張り
右三焦兪を根にして 膵兪から三焦兪まできつい筋張り
両三焦兪陥凹
次髎つまり

・五臓の弁別

・・肝

生理前高温期に胸が張り腰や下腹が痛む→高温期に納まる
生理の色は濃く、小さい塊、膜、濃血などがまじる。

舌戦アリ
左肝の相火あり
右臨泣つまり
大腿部 胆経突っ張り
左 胃兪を根にして膵兪から胃兪まで細い筋張り
右三焦兪を根にして膵兪から三焦兪まできつい筋張り

・・心

口喉の渇きがよくあり違和感も時々ある(しゃべる仕事)
心下つまりあり 動悸あり
右神門小さい硬結

・・脾

大学生の頃 体重53キロ 運動していた 便秘だった
社会人 体重48キロになって便通もよくなった

脾募薄くアリ
季肋際めくれ
下肢ふくらはぎの内側(腎経、肝経ライン)静脈瘤アリ
両 三陰交 こそげ
左陰陵泉硬い
左足三里 こそげ
左 胃兪を根にして膵兪から胃兪まで細い筋張り
右三焦兪を根にして 膵兪から三焦兪まできつい筋張り

・・肺

両列缺 こそげ
右太淵腫れ
大椎を中心にして肩井、身柱のラインまで大きく盛り上がり、着色あり
 (肩こりは感じない)
左肺兪陥凹

・・腎

睡眠不足で体調悪化
初経以来3-6ヶ月に一度の月経
生理前高温期に胸が張り腰や下腹が痛む→高温期に納まる
生理の色は濃く、小さい塊、膜、濃血などがまじる。
赤ちゃんの頃 右の股関節脱臼だった
大学生の頃 体重53キロ 運動していた 便秘だった
社会人 体重48キロになって便通もよくなった
歩きすぎると右股関節が痛い

脉両尺細い
左裏肝の相火あり
左 胃兪を根にして膵兪から胃兪まで細い筋張り
右三焦兪を根にして 膵兪から三焦兪まできつい筋張り
両三焦兪陥凹
次髎つまり
左中注 つまり少しあり
関元やや抜け
右外関動きが悪い
右陽池 冷え
下肢ふくらはぎの内側(腎経、肝経ライン)静脉瘤アリ
両復溜 こそげ
左曲泉筋張り

・・気虚

心下つまりあり 動悸あり
両列缺 こそげ
右太淵腫れ

・病因病理

初経の頃から3-6ヶ月に一度の生理であり、20代の時にはときに 生理を薬でおこしている。母親もそうであったということにより 遺伝的な要因も考えられるが腎気が不足気味であったと思われる。

右の先天性の股関節脱臼で長く歩くと大腿前面が痛み歩行により腎経、脾経への負担がかかりがちであったと思われる。大学生の頃は体重53キロ、就職してなんとなく体重が48キロに減って便秘がよくなっている。体重が落ちたとことで腎気への負担が減り、脾気の動きがよくなったのではないかと思われる。

現在、ご本人の生活に無理がないため、大きな違和感として問診で伺える項目はない。

しかしながら、体表観察をすると、

 1)上焦の気逆 :大椎部の盛り上がり、
         :心下のつまり

 2)脾気の弱り :背部腧穴の膵兪から胃兪、三焦兪まで続くスジバリ

 3)内湿    :薄い脾募

 4)腎気の弱さ :両三焦兪の陥凹 関元の抜け

 などが伺える。

列缺のこそげ、背骨の何となくはっきりせずつながった感じから、腎気を中心として全身の気虚がうかがわれる中、背部腧穴のスジバリの下端に三焦兪があり腎気の弱さが中心となり、脾気へのバックアップが不足しているのではないかと思われる。また、この中焦、下焦の弱さにより気逆がおこりやすくなり、口渇へとつながり水分の過剰摂取により内湿が生じている可能性がある。内湿や気逆は腎気への負担となり悪循環となっている。

ふくらはぎ内側腎経にも静脉瘤があらわれ、右曲泉はスジバリ、下腿腎経の弱さを示し、外関陽池の冷えや動きの悪さも腎の陽気不足を示している。

腎気の余力のなさが、3ヶ月から6ヶ月に一度の排卵となり、また排卵を誘発しても妊娠につながらないと思われる。

・弁証論治

弁証:腎虚を中心とした気虚
論治:益気補腎

・治療指針

腎気をそこあげし、脾気をバックアップ、気逆を納める
場合によっては、脾気そのものも手を入れる。

・生活提言:不妊治療へのアドバイス

多膿疱卵巣症候群という排卵がしにくい、他に原因はないという診断がついていますが、 排卵を薬でおこすことを1年以上続けても妊娠に致っていませんね。

これは排卵障害や西洋医学的な問題だけが不妊の原因になっているのではないということだと思います。

いままで薬に頼る治療は充分受けたと思われますので、一度薬をすべてやめて、 ご自身の力を充分出せる身体作りをしていきましょう。

年齢的にも若く、ご主人も不妊治療のステップアップがあまり積極的ではないようですから、半年から1年ぐらいは経過をみてもよいのではないかと思います。

半年たっても排卵が思ったようにおこらず、タイミングが合わなかった場合は排卵誘発、人工授精による治療を考えても良いでしょう。

また、半年から1年たって、妊娠に致らない場合は、いままで薬によるタイミング治療はおこなっていますので、一気にジャンプアップもよいのかもしれません。薬を全く使わない時期があって、その後一番はじめの薬を使った治療は反応がよい場合が多いです。

この最初の治療を体外受精胚移植で考えても良いですし、やはり人工授精からと考えるのも自然なことでしょう。

人工授精から考えた場合は、人工授精から体外受精にステップアップするときに、やはりある程度の薬を切る期間があってもよいかと思います。(年齢要因がまだ許すと思われます)

上手く妊娠、出産とご縁が続きますように。

・治療経過

初診より、排卵誘発剤など薬剤の治療はやめて病院での治療は休憩。

鍼灸治療のみでスタート。

週に一回程度の治療間隔、自宅施灸は毎日

5診にて妊娠、妊娠中も鍼灸治療を継続

20w ひどいむくみが出現

21w 柴苓湯にてあるていど解消、むくみとつきあいながらの妊娠生活。

無事にご出産。おめでとうございます