弁証論治:

0139:少ないチャンスのなか40才で出産した弁証論治

症例集→9回採卵するも移植チャンスは3回のみ(40歳出産)【case:0139】

・問診
主訴
 
妊娠がしたい、足のひえ

38才 会社員、身長165センチ 体重49キロ

3年前から妊娠希望。タイミングなどでは妊娠出来ず。

夫の要因もあり1年前から体外受精をはじめ、4回採卵に挑戦するも妊娠出来ず。

空砲が続いているので治療を少し休もうと思う。

クーラー、暖房、季節の変わり目、気を使ったあと、肉体疲労時に体調悪化

風邪を引くと前頭部痛がおこる

食欲は普通、空腹感は時々、食事はいつも美味しい、食後の腹脹胸焼けは時々

間食は毎日 たばこは吸わない、飲酒は月に4,5回、飲水は1000cc以上

喉や口は滅多に渇かない、違和感ない。

便通は3日に2回、ときどきお腹が張って辛い 
 調子が悪いとコロコロ状 付着することはない

小便は1日7回 夜間尿はない。

寝つき寝起き共によい、翌日に疲れが残ることもない

・・婦人科の状態について

 初経12才、28-30日周期で5-7日間
 生理前2-3日から胸の張り、イライラ、眠気、食欲が増す。
 排卵時に多少左下腹部にどーんとした痛み
 生理になると高温期に出ていた症状は納まる
 最近は生理痛はほとんどない
34-37才までは生理5日目から10日目まで下腹部激痛、生理血液の逆流と診断された
 生理は基本的にサラサラたまに塊、2日目に出血が多い。

・時系列の問診
20代
 まっすぐ寝ると腰が痛い
 よく膀胱炎になる。

30才
 生理痛がなくなり、足の冷えがきになるようになってきた。

34才
 貨幣状湿疹がはじまる。毎年冬に同じ範囲で出現。花粉症の時期に症状悪化

 34-37才までは生理5日目から10日目まで下腹部激痛、生理血液の逆流と診断された

35才
 前頭部の頭痛はじまる。生理の5,6日目に出現。
  (頭痛はどどーっと波打つように感じる、風邪や生理の後半)
 冷えに注意するようになったら膀胱炎の頻度が減った
 夕方になると上半身がのぼせるようになった

 ICSIを始める
 1回目 1つ成熟、1つ未熟、2つ空砲、移植、化学流産
 2回目 2つとも空砲
 3回目 排卵済み
 4回目 3つとも空砲

・体表観察

・・脉診
両寸口やや浮いている 右は固め、左は細くて締まっている
右関上輪郭が甘く浮位でやや固い
尺位左右とも輪郭が甘い

・・舌診
やや紅舌
舌裏怒脹あり細い
歯痕あり

・・動作診
仰向けで寝ると腰が痛い、
あぐらをかいて伸ばそうとすると股関節が伸ばせないことがある
首がつりやすい

・・腹診
心下つまりきつい、
脾募あり、
肝の相火きつい、
裏肝の相火きつい
中脘固い、
臍周引いてくる、
気海から関元筋張り
気海関元奥が冷え
少腹急結左少しあり痛い、
右は抵抗感がある(痛みはない)筋張り

・・経穴診
右の内関陥凹
右の太淵腫れ
外関こそげ右<左 左は冷えもあり 公孫陥凹 冷え固い 右<左 三陰交、冷え、ゆるい 復溜 冷え 右足三里陥凹 大腿胆経つっぱり ・・背候診 大椎細絡ありもりあがりあり 右心兪抜け 左三焦兪筋張り 懸樞冷え 両腎兪陥凹 右大腸兪陥凹 右次髎つまり ・五臓の弁別 ・・肝 34才貨幣状湿疹が始まる、冬に出現、花粉症の時期に悪化 生理前にイライラ胸の張り 舌:やや紅舌 舌裏怒脹あり細い(上焦、肝の鬱熱、瘀血の可能性) 肝の相火、裏肝の相火きつい 大腿胆経つっぱり 首がつりやすい ・・心 両寸口やや浮いている 右は固め、左は細くて締まっている 舌:やや紅舌(上焦の鬱熱、心熱の可能性) 心下つまりきつい 右心兪抜け 35才夕方になると上半身がのぼせる、首がつりやすい  (腎の陰虚熱が気逆に乗じて上焦の鬱熱となっている可能性) ・・脾 便通は3日に2回 調子が悪いとコロコロ便 飲水毎日1000cc 右関上輪郭が甘く浮位でやや固い 脾募あり 中脘固い、臍周引いてくる、気海から関元筋張り 右の内関陥凹 公孫陥凹 冷え固い 右<左 三陰交、冷え、ゆるい 右足三里陥凹 前頭部の頭痛はじまる。生理の5,6日目に出現(部位から胃経の頭痛)。 35才夕方になると上半身がのぼせる(日晡潮熱の可能性) ・・肺 34才貨幣状湿疹が始まる、冬に出現、花粉症の時期に悪化 両寸口やや浮いている 右は固め、左は細くて締まっている 右の太淵腫れ 大椎細絡ありもりあがりあり ・・腎 20代 まっすぐ寝ると腰が痛い、よく膀胱炎になる 30才 生理痛がなくなり、足の冷えが気になるようになる。 34才貨幣状湿疹が始まる、冬に出現、花粉症の時期に悪化 34-37才までは生理5日目から10日目まで下腹部激痛、生理血液の逆流と診断された 35才 前頭部の頭痛はじまる。生理の5,6日目に出現(時期から腎虚の頭痛) 35才 夕方になると上半身がのぼせる 首がつりやすい      (腎の陰虚熱の可能性) 35才:冷えに注意するようになったら膀胱炎の頻度が減った 舌:やや紅舌(腎の陰虚熱の可能性) 尺位左右とも輪郭が甘い 気海から関元筋張り 気海関元奥が冷え 外関こそげ右<左 左は冷えもあり 復溜 冷え 左三焦兪筋張り 懸樞冷え 両腎兪陥凹 右大腸兪陥凹 右次髎つまり ・・気虚 歯痕あり ・・瘀血 舌裏怒脹あり  少腹急結左少しあり痛い、右は抵抗感がある(痛みはない)筋張り ・病因病理 20代よりまっすぐ寝ると腰が痛い、よく膀胱炎になるなど、もともと腎気が少し弱めではないかと思われる。 30才には足の冷えが出現。生理痛がなくなるということと連動してでているので、腎気が弱まり、子宮を中心とする生命力の弱りが出現した可能性が伺える。 34才には貨幣状湿疹が冬に出現。 生理の5日目から10日目まで下腹激痛が出現している。 これは体表観察でも伺える風邪の内陥がこの時点から起こったのではないかと思われる。風邪の内陥がもともと弱めの腎気に負担をかけ一段と生命力を落とし脾気にも負担をかけ内湿を生じさせたのではないか。このため、腎気の弱りが明瞭となる生理の5日目から10日目の下腹部痛を引き起こし、風邪の内陥と腎気の弱りのためにおこりやすくなった気の上逆により、内湿とあわせ貨幣状湿疹の出現となった可能性が伺える。 風邪の内陥は継続し、腎気への負担、気の上逆が続き、1年後の冬、前頭部の頭痛が出現し、夕方になると上半身がのぼせるようになっている。 腎気は陰気を中心として不足となり胃の陰気を補うことができず胃経の熱となり 前頭部の頭痛が生じたのではないか。また夕方には疲労のため腎の陰虚熱を生じやすくなり、内湿や肝鬱もあるため上焦にこもりやすくなったと思われる。 ご本人の現在の体表観察からも、 両腎兪の陥凹、気海関元の奥の冷えなど腎気の弱りが明瞭である。その上 体つきの割に大きな脾募、中脘の固さ、心下のつまりなど 内湿の存在、脾気の動きの悪さ、強い気逆がうかがわれる。 また、大椎の細絡盛り上がり、右の太淵の腫れもあり風邪の内陥も伺える。 この風邪の内陥により生命力全体に負担をかけ、気の上逆を強くしより上焦の鬱熱を生じさせやすくなっている可能性がうかがわれる。 ・弁証論治 弁証: 腎の陰虚を中心とする腎虚 風邪の内陥  論治: 疎風散寒 滋腎補腎 ・治療指針 まず第一に生命に負担となっている風邪の内陥をとる。 腎の陰気をまし補腎し陰虚熱を納める。 内湿に関しては、腎気をたてることで内湿もある程度さばけていくのではないかと 思われるが、動きが悪いようだったら脾気にも手を入れて腎気への負担を軽くしていく。 ・生活提言 省略 ・治療経過 37才から妊娠希望にて高度生殖医療をはじめられ、4回の採卵周期があったものの空砲が多く1回の移植のみ。その移植は化学流産でした。 体調が整う前の採卵では採卵はできるものの培養途中で停止が続き、じっくりと身体作りをしたのちの採卵で始めて胚盤胞の凍結ができました。 結局9回の採卵周期で移植できる卵は3つしかできなかったわけです。 しかしながら、そのワンチャンスをいかし、しっかりと手入れし無事に3400㌘の大きなベビちゃんを手に抱かれました。 年齢が高めだとチャンスも減ります。でも、少ないチャンスをしっかり活かしていただき、無事の出産までたどり着くことができて本当によかったなあと思います(^^)。 凍結胚があと1個ありますね。1年を目処に断乳し、再度移植に向けて身体作りをしてからお迎えをしてあげましょう。 37才 妊娠希望 ICSIを始める  1回目 1つ成熟、1つ未熟、2つ空砲、移植、化学流産    このあと生理の量が減る  2回目 2つとも空砲  3回目 排卵済み  4回目 3つとも空砲 38才 ビッグママ治療室初診 2ヶ月後 5回目採卵ー1個採卵、凍結出来ず 3ヶ月後 6回目採卵ー1個採卵 凍結出来ず 7ヶ月後 7回目採卵ー2つ成熟卵、5つ空砲、1つ胚盤胞凍結 10ヶ月後 8回目採卵ー2つ成熟卵ー1つ胚盤胞凍結 1年後 9回目採卵ー3つ成熟卵ー桑実胚で停止 14ヶ月後 移植周期ーPが上がらず移植できず 15ヶ月後 移植周期ーPが上がらずホルモンを補充、でも納得できず移植見送り 16ヶ月後 移植周期ー移植ー妊娠  妊娠5w Pが下がり注射 妊娠6w 心拍確認  妊娠20w 上腹部が非常に張る  (子宮じゃなくてお腹が張っている。背中のお灸をしっかりするように指導ー解決) 妊娠30w 逆子ー34wなおる 妊娠37w 2800㌘ぐらいはあると言われる 妊娠妊娠39wにて無事に安産 3400㌘オーバーのベビちゃんを出産。おめでとうございます。 ・まとめ~第二子への挑戦について 9回の採卵でもよい卵が出来なかった 37才から妊娠希望にて高度生殖医療をはじめられ、4回の採卵周期があったものの空砲が多く1回の移植のみ。その移植は化学流産でした。体調が整う前の採卵では採卵はできるものの培養途中で停止が続き、じっくりと身体作りをしたのちの採卵で始めて胚盤胞の凍結ができました。結局9回の採卵周期で移植できる卵は3つしかできなかったわけです。 ワンチャンスを生かす しかしながら、移植出来る卵は少ないながらもワンチャンスをいかし、しっかりと手入れし無事に3400㌘の大きなベビちゃんを手に抱かれました。年齢が高めだとチャンスも減ります。でも、少ないチャンスをしっかり活かしていただき、無事の出産までたどり着くことができて本当によかったなあと思います(^^)。 第二子へ 凍結胚があと1個ありますね。1年を目処に断乳し、再度移植に向けて身体作りをしてからお迎えをしてあげましょう。 1度妊娠すると、『移植すれば妊娠出来るかも』と考えがちです。けれども、この卵はお宝卵。しっかり体調を整えて、第一子を移植したときと同じ状態にすることがとても大事です。上手に次のワンチャンスを生かしてくださいね。