弁証論治:

0165:右下腹腰痛不妊の弁証論治

症例集→ストレスからの下腹部痛、頚部痛、頭痛(39歳出産)【case:0165】

・問診
主訴 ①不妊、生理不順、腹痛、②右側だけの下腹部痛腰痛

37歳 女性 161㎝51キロ

右側だけの下腹部痛腰痛は10年ぐらい前からはじまり、生理前後や生理中を中心におこる。悪化傾向にはないがずっと続いている(胃腸の痛みとは別)。

部位は、右下腹部、股関節前面(鼠蹊部)、ひどいときは鼠蹊部のところから膝内側のところまで痛みの範囲がひろがる。右の腰部痛。

胃痛、腹痛、生理不順は自分ではストレスでおこるように思える。

もともと、夕方になると足がむくみ、眠りに入り難く、眠りが浅く、朝おきがたい感じが続いている。

・・普段の状態について

普段からすっきりしているという日は少なく、春、クーラー、秋、梅雨、季節の変わり目など全体に調子が悪い。肉体疲労時、気を使ったあと、睡眠不足、旅行のあと、食後、食べ過ぎたときなど調子が悪い。

入浴中は調子がよい、

食欲は普通、食事が不規則で昼閒は仕事の都合で15分ぐらいしか食事時間がない、

食事前の空腹感は時々、食事は美味しい、食事の腹脹胸焼けはよくある。

よく食べるのは食物繊維の多い食品、白米

間食は職場での差し入れが断り切れず週に1回以上食べる。

水分は600ccぐらい飲む、喉は時々渇き、時々違和感がある。

飲酒はほとんどしない、たばこは一日4本以上

便通は1日1回、時時出ないときもあるがストレスとは無関係と思える

便が出きらない感じはよくある、形は太い、細い、コロコロ、軟便など 量は多いときも少ないときもありよくにおう。

小便は1日10回ぐらい、この4,5年便秘の時に尿切れが悪いときがある、

子供の頃から夜間排尿があり、1回ぐらいトイレにいく。

睡眠は夫の仕事の関係であまり一定ではない。0時半過ぎにねて7時に起きる

寝つきは悪い、

・・婦人科の状態について

胃腸の痛みとは関連がない

右側だけの下腹痛、腰痛とは生理の状態と関係があるように思う。

生理は12歳ではじまり、5日間ある。不安定で24-35日ぐらいの周期。

生理の色は濃い、塊が混じる。量は普通で2日目が多い

排卵期には、右下腹部痛、右の腰痛が出現

生理前にイライラ、頭痛(後ろ頭、腰下腹部、乳房のの痛みがある、とくに
 7日前頃 胸の張り、腰の痛み(右)
 2,3日前 下腹の痛み (右)

生理がくると、生理の後半には生理前に出ていた症状が納まる
生理痛は初日と二日目に刺痛、鈍痛がある、腰が痛く股関節周辺から
太ももぐらいまでの痛みが右側だけに出現(排卵時と同じ)
3年前に腹痛と不正出血の相談に婦人科を受診するも、子宮や卵巣に問題はないと言われる。

・時系列の問診
子供の頃から夜間尿があり、夜1回ぐらいはトイレに行く

20代前半のころストレスがとても強く多かった。このころからお腹全体の痛み、首の後ろの頭痛がはじまり、病院では慢性胃炎と言われていた。

27歳の頃ストレスで胃腸の痛みが加わり強くなり、主訴である右側だけの下腹部痛腰痛も始まる(現在も継続)

32歳頃から便秘になると尿切れが悪くなる

36歳 結婚

37歳 ビッグママ治療室受診

・体表観察

・・脉診
やや数脉、
脉右の寸関尺位硬く、
右尺位はやや弦

・・舌診
紅舌 
やや白い膩苔 
歯痕あり、
舌裏怒脹ややあり

・・腹診
心下つまりややあり
脾募、うすくしっかりとある
右の肝の相火あり、
季肋際につまりあり
(上腹部は常にイヤな感じがする)
下脘から臍 汗冷たい感じ、動きが悪い
右の天枢 突っ張り
右の大巨 突っ張り
右の小腹急結あり、左も少しあり

・・経穴診
右の内関 陥凹
両列缺こそげ
右の太淵 腫れ
右の外関 冷え
右の神門 硬結
大都 割れ
公孫 陥凹 右<左 左湧泉 冷え 三陰交やや動き悪い 足三里 こそげ(右) 可能 右陰陵泉突っ張り ・・背候診 大椎温、膨らみあり 上背部細絡ややあり 左の風門 陥凹 右の肺兪 陥凹 右の厥陰兪 大きく陥凹 左心兪から督兪 筋張り、板状 左の膈兪膵兪陥凹 胸椎8番 冷え 右の膵兪 陥凹 左胆兪 脾兪 こそげ 右脾兪 陥凹 左右大腸兪奥が冷え 右の次髎 つまり 背中全体に温 ・五臓の弁別 ・・肝 右側だけの生理と連動する下腹部痛腰痛 胃痛、腹痛、生理不順は自分ではストレスでおこる 眠りに入り難く、眠りが浅く、朝おきがたい感じが続いている。 生理周期が不安定 生理前のイライラ、胸、腰、下腹の痛み、生理が来て後半には症状が治まる 右の肝の相火あり、 季肋際につまりあり (上腹部は常にイヤな感じがする) 右の天枢 突っ張り 右の大巨 突っ張り 右の小腹急結あり、左も少しあり ・・心 紅舌 脉数  心下つまりややあり 右の神門 硬結 右の厥陰兪 大きく陥凹 左心兪から督兪 筋張り、板状 ・・脾 右側だけの生理と連動する下腹部痛腰痛(鼠蹊部の痛みの部位が陽明胃経) 胃痛、腹痛、生理不順は自分ではストレスでおこる 普段からすっきりしているという日が少ない。梅雨、季節の変わり目体調悪化 食事前の空腹感は時々、食事は美味しい、食事の腹脹胸焼けはよくある。 便が出きらない感じはよくある。形も太い、細い、コロコロ、軟便など様々 右関上硬い やや白い膩苔 脾募、うすくしっかりとある 季肋際につまりあり (上腹部は常にイヤな感じがする) 下脘から臍 汗冷たい感じ、動きが悪い 右の天枢 突っ張り 右の大巨 突っ張り 右の内関 陥凹 大都 割れ 公孫 陥凹 右<左 三陰交やや動き悪い 足三里 こそげ(右) 可能 右陰陵泉突っ張り 左の膈兪膵兪陥凹 胸椎8番 冷え 右の膵兪 陥凹 左胆兪 脾兪 こそげ 右脾兪 陥凹 ・・肺 たばこは1日4本以上 両列缺こそげ 右の太淵 腫れ 大椎温、膨らみあり 上背部細絡ややあり 左の風門 陥凹 右の肺兪 陥凹 ・・腎 夕方になると足がむくむ 眠りに入り難く、眠りが浅く、朝おきがたい感じが続いている。 肉体疲労時気を使ったあと、睡眠不足、旅行のあとに体調悪化 便秘になると尿切れも悪くなる 子供の頃から夜間排尿あり 生理周期が不安定 生理前に後頭部痛 生理前のイライラ、胸、腰、下腹の痛み、生理が来て後半には症状が治まる 右尺やや弦 右の天枢 突っ張り 右の大巨 突っ張り 右の小腹急結あり、左も少しあり 右の外関 冷え 左湧泉 冷え 左右大腸兪奥が冷え 右の次髎 つまり ・・瘀血 右側だけの生理と連動する下腹部腰痛、太もも、股関節前面の痛み 舌裏怒脹ややあり 右の小腹急結あり、左も少しあり ・・気虚 歯痕あり ・病因病理 もともと、小さい頃から夜間尿があり、夕方になると足がむくみ、眠りの問題も強く少し腎気の不足気味の素体であったと思われる。 20台前半にあった強いストレスにより、お腹全体の痛みや、首の後ろの頭痛がはじまる。 強い肝鬱によって、脾気に負担をかけお腹の痛みが出現し(肝気犯胃)、もともとの腎気の弱さとあいまって風邪の内陥をゆるし、継続する首の後ろの頭痛となっていった可能性が伺える。 27歳の頃の強いストレスによって、胃腸の痛みが強くなり、主訴である右側だけの下腹部痛、腰痛がはじまっている。 排卵時や生理時の腎気に負担となり子宮に気血が集まるときに症状が出現していることから、強い肝鬱によって下焦右側に瘀血の停滞を生じ症状の出現となっているのではないかと思われる。 32歳頃からは、便秘になると尿切れが悪くなるというように、腎気は補われることなく少しずつ低下していったと 思われる。 右側の腰、下腹部痛は、排卵時、生理の前後のみにあらわれることから、下焦の場に停滞した瘀血が、子宮に気血があつまり腎気への負担となるときに症状となるのではないかと思われる。 37歳現在、普段からすっきりしている日がなく、梅雨、季節の変わり目、春秋と全体に調子が悪いときが多い。 腎気の弱りがあることと、ストレスによって脾胃に負担となっているために内湿が生じているためではないかと思われる。 また、首の後ろの頭痛から風邪の内陥があるのではないかと思われるが、上腹部は常にイヤな感じがするということから、ストレスと風邪の内陥によって、常に気逆があり脾胃への負担となり より内湿が生じやすくなっていると思われる。 また、この常にある気逆と風邪の内陥と、内湿によって気血の巡りは悪く、下焦に生じた瘀血も解決しがたい問題となっていると思われる。 背中をみると、風門肺兪の陥凹、胸椎8番の冷え、大腸兪の奥が冷えなど、風邪の内陥が負担になっているのではないかということが明瞭である。また、ストレスからなのか、右の心兪から督兪の板状の経穴、その下の膈兪膵兪の抜け陥凹は、ストレスによって痛めつけられている心身を脾胃がなんとか支えようとしていることもうかがわれる。 現時点で、右の下腹部腰痛は、生理4日目ぐらいになると消失している。ひどいときには膝の方までも痛みが広がるほどの状況だが、生命力のリズムに従っての動きがある。ストレスに関しても、20代のころの強いストレスはなくなっている。いろいろな症状が継続し、腎気は負担となり落ち続けいているが、症状そのものはなんとか悪化せずに踏みとどまっている状況であると思われる。 ・弁証論治 弁証 肝気犯胃 内湿瘀血 腎虚 風邪の内陥 論治 疎風散寒 補腎 活血化瘀 ・治療指針 先ず第一に風邪の内陥を取り去る。 風邪の内陥がなくなってから、脾気と腎気の様子をみて、脾気に強い問題がなければ 腎気を中心に補腎し、脾気へのバックアップ、瘀血の解消を図る。 ・治療経過 初診より週に1度の治療、毎日の自宅施灸 初診  右の内関、左公孫 右足三里 三陰交  下脘 関元 温灸  左胆兪 右脾兪 左胃兪 左腎兪 大腸兪  初診後、右側の腰の痛みがない、自宅でお灸のあと後頭部の頭痛がする(→足三里を一番最後にするように指導して解決) 2-8診で使った経穴  肺兪、風池、外関、陽池 次髎 曲泉 など 8診後 頭痛、胃痛は だいぶよくなり、薬を飲むことがなくなった。 10診後 下痢などしたことがあいのに、下痢が出る。便通のタイミングそのものも毎日ずれる 12診後 便通は毎日出るがタイミングがずれている。便の出方はすっきりしてきた 15診後 生理前などに右の腰の痛みが出るが、施術や置き針でコントロール範囲にある 20診後(5ヶ月後)自然妊娠 妊娠13w お正月の生活の乱れか 胃腸の調子が悪くなってしまった 妊娠14w鼠蹊部、股関節の痛みが出現(もともとあった痛みが再発)  恥骨上、鼠蹊部、陰極、曲線にパイオネックス 妊娠16w 股関節の痛みは、パイオネックスをはずした途端に出現する  股関節2点、膝内側右2点、左1点 腰4つ→これにて全体に安定 妊娠21w 股関節に違和感があると婦人科検診でいったら、ドクターが恥骨をぎゅーぎゅー  強い力で押し、それ以来、恥骨股関節が痛くて辛い→この痛みは4週間続く 妊娠28w 治療時間の勘違いで来院されず。このときパイオネックスを全部はずしてしまい、  なにもない状態で一週間過ごしたら、恥骨も、腰もとても痛かった。  →翌週の施術後ぴたっとよくなった。 妊娠34w 赤ちゃんは充分大きく、予定日が間違っているのではないかと言われている。 胃痛は少しあるが、以前とは全く違う感じで楽。 妊娠38w 子宮口が2㎝あいている 妊娠39w だいぶ下がった ・患者さんからのメール 『本日、なんとか、3500グラムを越える女の子を普通分娩にて出産しました。丸2日苦しみましたが、分娩はビッグな赤ちゃんだった割にスムーズで先生達に褒められました!! 自然妊娠から出産間際までお世話になりありがとうございました。頑張って育てて行きます。妊娠中大変心強かったです。本当にありがとうございました。』 無事のご出産、おめでとうございます。よかったねえ。