弁証論治:

0147: 身体作りと不妊治療 二人三脚での妊娠出産

.<問診>

36歳、女性 パート事務
身長:159cm、体重:50kg、血圧:記載無し
家族構成:夫

肉親の病気の遺伝的傾向:糖尿病、心臓

主訴・・・①不妊、②精神的な落ち込み、イライラ、不安定

..【今一番つらい症状について】
①不妊・・・最初に生理不順で病院に掛かった時に将来的には治療が必要だろうと言われたこともあり、30歳で妊娠を希望してからはすぐに治療を始めたが、思うように結果が得られない。病院でのクロミッドを服用してのタイミングを2年、その後2年ほど治療をお休みし、人工授精を6回行うが妊娠せず、体外受精に進む。6月に4個採卵できたが全て未成熟で移殖に至らず、卵巣刺激で腹水が溜まった。

②精神的な落ち込みなど・・・30歳で不妊治療を始めてから、精神的に落ち込んだり、自己嫌悪でイライラしたり不安定になることがある。不妊治療を続けることへの不安から起こっていると自分で思う。不妊治療以外のことで、このように落ち込んだりすることはない。

生理が来ると気分が落ち込んだり、不安定な時は体がこわばっている感じで首肩が凝り、頭痛もすることが多い。頭痛がするときはキーンという耳鳴りしたり、高所にいるときのような耳が閉塞したような感じがすることがある。また気分の落ち込みがひどい時は寝起きも悪い。

..【その他に治したいこと】
肩こり・・・不妊治療を始めてひどくなる。中学生頃から肩こりがあり、親に肩を揉んでもらっていた。それに伴う頭痛はあったが、今ほどの頻度ではなかったのであまり気にしていなかった。体の緊張があった自覚はなかったが、子供の頃は友人や親に水道の蛇口を硬く閉めていると注意されたことがあったり、食いしばりの癖を歯医者で指摘されたことがあり、体が緊張していたのかなと最近は思う。

頭痛・・・不妊治療を始めてひどくなる。頭痛は夕方に出ることが多く、数日間続くこともある。側頭部と後頭部が痛くなる。扁桃炎と共に疲れると出ていると思う。

扁桃腺の腫れ・・・もともと耳鼻咽喉系が弱いので、外耳炎や中耳炎、扁桃炎によくなっている。飛行機で耳が痛くなるのもきつく、登山で中耳炎になったこともあった。中耳炎、外耳炎は大人になって頻度は減ったが、扁桃が腫れる頻度は多くなっていると親に言われた。扁桃炎は疲れと連動。

寝違え・・・朝起きた時に寝違えなのか首が痛いことがある。朝だけでなく日中でもちょっとした拍子に首を痛めることも時々ある。冬に寒くて体がこわばるせいか、冬の方がよく起きる。子供の頃からよく寝違えていたが、25歳くらいの仕事のストレスがひどかった時には2~3日おきに寝違えが起こっていた。整形外科では首が長いのでダメージを受けやすいと言われた。不妊治療で悪化はしていない。

冷え性・・・子供の頃から冬に手足の冷えがきつくて気になる。冷えると思っているので夏でも家ではエアコンを使っていない。

..【その他、問診でわかったこと】
ハウスダスト?アレルギー・・・初夏の頃に少し気温が上がり始め、エアコンがつき出すと喉が痒くなり、咳がでるようになる。咳は1日中あり、夜中も咳き込む。6~7月は咳がひどく、筋肉痛になったり、鼓膜が飛び出したりしたこともある。8月になるとエアコンの中の埃が少なくなるので、だんだん症状が落ち着いてくる。

子供の頃から中学生くらいまでは春の花粉症があったが、あるとき春に花粉症が出ず、治ったのかなと思っていたら、初夏のエアコンダストアレルギーの咳が出るようになり、現在まで続いている。この後、花粉症は無くなった。初夏の咳き込みはここ2~3年ひどくなった。小青竜湯を処方してもらったこともあったが、喉の痒みは少しましになったが咳は出た。

ヘルペス・・・30歳頃に初めて顔全体にヘルペスが出て、それ以降、年に1~2回ヘルペスが出る。鼻の中(鼻中隔)と鼻の下あたりに疲れるとヘルペスが出る。

31歳での転職について・・・転職前の会社ではかなり肉体的にハードで、夜中まで仕事することも多々あったが、20代の頃はそれも苦ではなく、やりたい仕事だったので充実していたが、30歳から体調的にいろいろ出るようになった気がする。転職後の職場は残業もなく肉体的には楽だが、人間関係など精神的にはストレスが多い職場だと思う。

..【これまでにかかった大きな病気】
虫垂炎・・・10歳の時、手術を受け、経過は良好。
肝腫瘍・・・33歳の時、みぞおちの痛みから発見。半年に一度の検査で経過観察中。

..【ふだんの状態について】
…(体調の悪い変化)
季節の変り目・・・咳が出る
肉体疲労時、気を使ったあと

…(体調の良い変化)
記載無し

…(風邪)
風邪はあまり引かない。引くと喉が痛くなる。

…(食事)
食べる量は昔から大食。
食事時間は、朝昼は規則的だが、夜は夫の帰りにあわせるので不規則。
普通に噛んで食べ、30分以上かけて食べる。
食事前の空腹感はよくあり、おいしく食べられる。
食後にお腹が張ったり、胸焼けは、時々
よく食べるのは、白米、野菜。
好きな物は、ご飯、プリン。
嫌いな物は、桃、さくらんぼ。
間食は週に1回ほど、職場でドライフルーツを食べる程度。

…(水分)
1日に、100ccのコップで3杯以上で、合計300cc以上飲む。
緑茶、ほうじ茶、紅茶を飲む。
口喉はよく乾くがそんなに水分を飲めないので、ちょくちょく口を湿らす程度
に水分を取る感じ。いつ頃からかはよく分からないが、結婚してご主人がそん
なに水分を取っていないのを見て自覚した。
口喉に違和感はない。

…(飲酒)
月4~5回、梅酒を3~4杯。

…(タバコ)
吸わない。

…(大便)
3日に1回出る。
子供の頃から便秘で、1週間出ないこともあったりして、病院で浣腸してもらうこともあった。パートの仕事に転職して朝の時間に余裕ができたら3日に1回は出るようになり、お腹が張って辛いことは時々になった。
便が出切らない感じは時々。
便はコロコロで少ない。
便器に付着することはない。
臭いは普通でめったに臭わない。

…(小便)
1日4回。
残尿感、尿切れが悪いことはめったに無い。
夜間排尿は時々、朝4時頃に1回ある。
尿の色が黄色いことはよくある。

…(睡眠)
就寝0時過ぎ、起床7:30。
寝付きは良く、眠りは普通で、寝起きは昔から悪い。
社会人になってから、翌日に疲れが残ることはよくある。転職してもあまり変わらない。
夢は見るが、内容は覚えていない。

..【婦人科の状態】
初経10歳。
生理期間、周期は不規則。20歳くらいまでは20日くらいの間隔で出血めいたものが3~4日続くということを繰り返すことが多かった。大学生になって、年に3~4回ちゃんとした出血があり、その他は血が混じったような茶色のおりものがあった。茶色のおりものが数ヶ月続くこともあり、その都度、婦人科にかかり薬を服用して出血を止めていた。

不妊治療を始めてからは薬で排卵を起こしていたので定期的に生理が来ていた。6月の採卵の後は薬を使っていないせいか、生理周期が60~70日と長くなっている。

生理血は濃くて、親指大の塊が混じる。初経の頃からドロッとしていた。
量は昔から少なく、1日目、2日目が多い。

生理7日前くらいから胸が張り、後頭部と側頭部に頭痛がし始め、2~3日前には腰と下腹部に鈍痛が出る。生理前の不調は20歳くらいからある。生理が来ると下腹部の痛みが刺痛に変わり、お腹の痛みに気を取られるせいか他の症状はあるが気にならなくなる感じ。生理痛は2日目まである。

不妊治療を始める前から生理前の体調不良と生理痛はあったが、不妊治療を始めて生理がちゃんとくるようになってからは生理痛が増している気がする。生理痛が始まってからでは痛み止めの薬を飲んでも効かない。

.<時系列>

子供の頃・・・春の花粉症。
        便秘。
        首を寝違えやすい(現在まで)。
        手足が冷える(現在まで)。

10歳・・・初経。
     生理は塊が混じり、不規則(現在まで)。
     虫垂炎の手術(経過良好)。

中学生・・・肩がこる(現在まで)。
      肩こりに伴う頭痛が時々。
      花粉症が無くなり、初夏の咳が出るようになる(現在まで)。

20歳頃・・・生理前の不調(胸の張り、頭痛、腰と下腹部の痛み)が出る
      (現在まで)。

20代・・・食後の胸やけやお腹の張りがある(便通と連動)(現在まで)。

22歳・・・社会人になって翌日に疲れが残るようになる(現在まで)。

25歳・・・仕事のストレスがひどい。
     首の寝違えを頻発する。

26歳・・・子宮筋腫が見つかり、経過観察(現在まで)。

27歳・・・結婚。

30歳・・・多嚢胞性卵巣と診断を受ける。
     妊娠を希望し、不妊治療を始める(タイミング2年)。
     生理痛がきつくなる(現在まで)。
     精神的に落ち込むことがある(現在まで)。
     精神的に落ち込んだ時は寝起きが悪い(現在まで)。
     イライラする(現在まで)。
     肩こり、頭痛が増す(現在まで)。
     初めてヘルペスが出る(現在まで年に1~2回)。

31歳・・・不妊治療に専念するためパートに転職(現在まで)。
     便通が良くなり、3日に1回になる(現在まで)。
     食後の胸やけやお腹の張りがましになる(現在まで)。

33歳・・・不妊治療をお休みする(2年)。
     肝腫瘍が見つかる(経過観察)(現在まで)。

34歳くらい・・・ハウスダストの咳がひどくなる(現在まで)。

35歳・・・人工授精を行う。

36歳6月・・・採卵するも移植できず、腹水が溜まる。

36歳7~8月・・・咳がひどかった。

36歳秋現在・・・生理周期が長い。

.<切診情報>

..【脈診】
全体に遅
右尺 輪郭甘い、浮位なし
左尺 硬め、浮位なし
右関 輪郭甘い
左関 硬め

..【舌診】
舌質 やや淡白
舌裏怒張 きつい

..【腹診】
心下 つまりあり
脾募 あり
裏肝の相火 きつい
左天枢 筋ばり
気海 抜け
関元 抜け
右少腹急結 あり

..【経穴診】
右内関 こそげ
列缺(右<左) こそげ
左外関 こそげ
右神門 硬結
公孫 陥凹
三陰交 ややこそげ
右足三里 陥凹大きい

..【背候診】
大椎 盛り上がり、やや冷え
右肺兪 陥凹きつい
左心兪 陥凹大きい
胃兪 陥凹
左三焦兪から腎兪にかけて 大きな陥凹
右三焦兪 陥凹大きい
左次リョウ つまり

.<五臓の弁別>

..【肝】
不妊治療を続けることへの不安から精神的に不安定
気分の落ち込みがひどい時は寝起きも悪い。
精神的に不安定な時は体がこわばっている感じで首肩が凝り、頭痛もする
頭痛がするときはキーンという耳鳴りがする
頭痛がするときは耳が閉塞したような感じがする
頭痛は側頭部が痛くなる。
水道の蛇口を硬く閉めている
食いしばりの癖
子供の頃から冬に手足の冷えがきつくて気になる。
転職前の会社ではかなり肉体的にハード。
転職後の職場は肉体的には楽だが、人間関係など精神的にはストレスが多い。
普段からガスを出すことがうまくできない
口喉はよく乾くがそんなに水分を飲めないので、ちょくちょく口を湿らす程度に水分を取る。
20歳くらいまでは20日くらいの間隔で出血めいたものが3~4日続くという生理。
大学生になって、年に3~4回ちゃんとした出血があり、その他は血が混じったような茶色のおりものの生理。
茶色のおりものが数ヶ月続くと婦人科にかかり薬を服用して出血を止める。
不妊治療を始めてからは薬で排卵を起こしていたので定期的に生理が来る。
6月の採卵の後は薬を使っていないせいか、生理周期が60~70日と長くなる。
生理量は昔から少ない。
生理7日前くらいから胸が張り、後頭部と側頭部に頭痛がする。
生理2~3日前には腰と下腹部に鈍痛が出る。
生理が来ると下腹部の痛みが刺痛に変わる。
不妊治療を始めて生理がちゃんとくるようになってからは生理痛が増している。
生理痛が始まってからでは痛み止めの薬を飲んでも効かない。

10歳・・・初経。
     生理は塊が混じり、不規則(現在まで)。
中学生・・・肩がこる(現在まで)。
      肩こりに伴う頭痛が時々。
20歳頃・・・生理前の不調(胸の張り、頭痛、腰と下腹部の痛み)が出る
      (現在まで)。
22歳・・・社会人になって翌日に疲れが残るようになる(現在まで)。
25歳・・・仕事のストレスがひどい。
     首の寝違えを頻発する。
30歳・・・妊娠を希望し、不妊治療を始める(タイミング2年)。
     生理痛がきつくなる(現在まで)。
     精神的に落ち込むことがある(現在まで)。
     イライラする(現在まで)。
     肩こり、頭痛が増す(現在まで)。

左関 硬め
裏肝の相火 きつい

..【心】
心下 つまりあり
右神門 硬結
左心兪 陥凹大きい

..【脾】
小青竜湯を処方してもらって、喉の痒みは少しましになったが咳は出た。
鼻の中(鼻中隔)と鼻の下あたりに疲れるとヘルペスが出る。
季節の変り目・・・咳が出る
食べる量は昔から大食。
食後にお腹が張ったり、胸焼けは、時々。
普段からガスを出すことがうまくできない
口喉はよく乾くがそんなに水分を飲めない
パートの仕事に転職して朝の時間に余裕ができたら3日に1回は便が出るようになり、お腹が張って辛いことは時々になった。
便が出切らない感じは時々。
便はコロコロで少ない。

子供の頃・・・便秘。

全体に遅
右関 輪郭甘い
脾募 あり
右内関 こそげ
公孫 陥凹
三陰交 ややこそげ
右足三里 陥凹大きい胃兪 陥凹

..【肺】
外耳炎や中耳炎、扁桃炎によくなっている。
中耳炎、外耳炎は大人になって頻度は減った。
扁桃が腫れる頻度は大人になって多くなっている。
小青竜湯を処方してもらって、喉の痒みは少しましになったが咳は出た。
咳は1日中あり、夜中も咳き込む。
鼻の中(鼻中隔)と鼻の下あたりに疲れるとヘルペスが出る。

子供の頃・・・春の花粉症。
中学生・・・花粉症が無くなり、初夏の咳が出るようになる(現在まで)。
34歳くらい・・・ハウスダストの咳がひどくなる(現在まで)。
36歳7~8月・・・咳がひどかった。

列缺(右<左) こそげ
大椎 盛り上がり、やや冷え
右肺兪 陥凹きつい

..【腎】
頭痛は夕方に出ることが多く、数日間続くこともある。
頭痛は扁桃炎と共に疲れると出ていると思う。
中耳炎、外耳炎は大人になって頻度は減った。
扁桃が腫れる頻度は大人になって多くなっている。
扁桃炎は疲れと連動。
朝起きた時に寝違えなのか首が痛いことがある。
冬に寒くて体がこわばるせいか、冬の方が寝違えはよく起きる。
子供の頃から冬に手足の冷えがきつくて気になる。
鼻の中(鼻中隔)と鼻の下あたりに疲れるとヘルペスが出る。
転職前の会社ではかなり肉体的にハード。
肉体疲労時、気を使ったあとが体調悪い
夜間排尿は時々、朝4時頃に1回ある。
寝起きは昔から悪い。
社会人になってから、翌日に疲れが残ることはよくある。
転職しても翌日の疲れはあまり変わらない。

22歳・・・社会人になって翌日に疲れが残るようになる(現在まで)。
30歳・・・妊娠を希望し、不妊治療を始める(タイミング2年)。
     生理痛がきつくなる(現在まで)。
     精神的に落ち込むことがある(現在まで)。
     イライラする(現在まで)。
     肩こり、頭痛が増す(現在まで)。
     初めてヘルペスが出る(現在まで年に1~2回)。

全体に遅
右尺 輪郭甘い、浮位なし
左尺 硬め、浮位なし
左天枢 筋ばり
気海 抜け
関元 抜け
左外関 こそげ
左三焦兪から腎兪にかけて 大きな陥凹
右三焦兪 陥凹大きい
左次リョウ つまり

..【気虚】
中学生・・・肩がこる(現在まで)。

全体に遅

..【オ血】
10歳・・・初経。
     生理は塊が混じり、不規則(現在まで)。

右少腹急結 あり

<病因病理>

子供の頃から便秘で、手足の冷えがある。生理がくるようになった初めの頃から生理には塊が混じっていた。中耳炎や外耳炎も起こしやすく、扁桃腺も腫れやすかった。中学生の頃には母親に肩を揉んでもらうほど肩が凝り、肩こりに伴う頭痛も時々起こっていた。これらの症状を見ると、子供の頃からかなり肝鬱がきつかったことが窺える。このきつい肝鬱は無意識のうちに常に体に力が入っている状態を生み、水道の蛇口を硬く閉めたり、夜間の食いしばりや寝違えを起こしやすくしていたと考えられる。

20歳になり、器が充実すると更に肝鬱はきつくなり、生理前の不調が起こるようになった。心身の成長過程にある子供の頃は五臓のバランスを崩しやすく、そのために色々な症状が出ることもあるが、器がしっかりと成長すると五臓のバランスも取れて、それらの症状は無くなることも多い。中耳炎、外耳炎になる頻度が減ったのも、耳を主る腎器が充実したためと考える。しかし中耳炎、外耳炎の頻度は減ったものの、子供の頃からの症状は大人になっても続き、生理前の不調も加わることとなっていることから、常に器以上に肝気が先行し、大人になっても日常的な肝鬱状態が続いていると考える。

社会人になって夜中まで仕事をすることも多々あり、翌日に疲れが残る毎日となった。やりたい仕事であり精神的には充実し、まだ若かったため無理がきいていたが、肝鬱腎虚の悪循環に入り始めたことが窺える。そのため扁桃腺が腫れる頻度は疲れと連動して増えることになった。またもともと気機の疏泄の悪さから、生理には血塊が混じるなどオ血を生じやすい傾向にあったが、26歳では子宮にオ血の塊である筋腫が見つかった。

このような肝鬱腎虚の生活が続く中、30歳の頃に不妊治療を始める。もともと不順であった生理を妊娠のためにきちんと起こすことはかなり腎気に負担を掛けることになった。そのため、今まで以上に肝気は上逆しやすくなり、イライラや肩こり、頭痛が増えることとなった。腎気を傷めた所への肝鬱状態のため、生理痛もきつくなった。弱った腎気に根付く肝気は不安になり、精神的に落ち込むことが多くなったり、精神的に落ち込んだ時は肝気が立ちにくく寝起きが悪くなった。また腎気の支えを失った肺気の弱りに乗じて鼻中隔にヘルペスが出やすくなっていると思われる。

31歳で不妊治療に専念するためパートに転職する。朝の時間に余裕ができ、便通が良くなり、それに伴って食後の胸焼けやお腹の張りもましになった。しかし新しい職場は肉体的に楽になったものの、人間関係において以前より精神的なストレスが増し、またお通じは3日に1回で、ガスが出ずお腹が張ったり食欲が沸かなかったりすることも依然としてあることから、肝鬱状態は続いていると考えられる。

その後、2年ほど不妊治療をお休みし、6回の人工授精ののち、36歳で採卵するも受精しなかった。この時、腹水が溜まってしまい、現在薬を使っていないが、生理周期が長くなっている。このことから、不妊治療をお休みしたにも関わらず、腎気を回復することができず、その後の人工授精、採卵と進み、ますます腎気を損傷することになり、生理周期も長くなってしまっていると考えられる。

もともと肝鬱の強い人であり、左関上の脈が硬め、心下のつまり、右神門の硬結と現在もきつい肝鬱状態であることは窺えるが、それ以上に、両尺の浮位の触れないこと、気海と関元の抜け、右三焦兪の大きな陥凹や左三焦兪から腎兪にかけての大きな陥凹など、腎気の虚損がかなり深くなっていることは不妊治療のみならず、大きな問題であると考える。

また採卵のあとの夏はハウスダストアレルギーの咳がひどかった。もともと肝鬱が増した中学生の頃からこのアレルギーの咳はあることから、肝鬱により特定の外邪(ハウスダスト)に過剰に反応している咳ではないかと考える。ここ数年、この咳がきついのも、腎虚が派生して蓋としての肺気が弱っているところに、肝鬱が乗じやすくなり、アレルギー反応が起こりやすくなったのではないかと推察する。切診からも大椎の盛り上がりと冷えや右肺兪のきつい陥凹、列缺のこそげ、左心兪の大きい陥凹など上焦の弱さが窺える。もともと口喉がよく乾き頻繁に潤したいことからも、気逆が強く、上焦に熱を持ちやすいことが窺え、それが肺気に派生すると扁桃腺が腫れることに繋がっているのではないかと思われる。

<弁証論治>

弁証:腎虚、肝鬱
論治:補腎、疏肝理気

<治療指針>

まずは不妊治療で弱ってしまった腎気をしっかりと補い、今後の不妊治療に繋げていきたい。
また同時に肺気も補うことで蓋としての機能をしっかりさせて、肝気に侵されにくくし、上焦を強化することで、引いては扁桃腺炎や寝違えなどを起こりにくくなるようにしたい。
きつい肝鬱に関しては、治療に必要な時は適宜理気するも、生活の見直しや不妊治療のアドバイスなどにより、肝気の安定を図る。

<生活提言>

20代の頃は朝から夜遅くまでお仕事をされてかなり体力的には無理をされていたようですが、やりがいのある仕事でもあり精神的には充実されていたようですね。気力で頑張って物事をやり遂げたり、生真面目に物事に取り組まれる姿勢は、お話を伺うと、きっと子供の頃から現在に至るまでずっと○○さんの日常的な習慣になっているのではないかと感じました。その頑張りが知らず知らずのうちに少しずつお体を傷め、気付いた時にはきつい症状として現れてしまうのではなかいと思われます。

子供の頃から体に力が入っていたのではないかと自覚されているように、休息がうまく取れずに頑張り続けたり、ストレスを多く受けると身体の気血の巡りが悪くなり、身体の上部に気血が鬱滞しやすくなって扁桃腺炎や頭痛などさまざまな症状が出たり、末端である手足は冷えたりします。そしてご自身でも感じていらっしゃる30歳以降の不調は、不妊治療で生命力が損なわれ、更に気血の巡りが悪くなり、また生命力が損なわれるという悪循環になっていると考えられます。

まずは鍼灸治療でこの悪循環を脱し、生命力を上げながら気血の巡りも良くすることが体調の建て直しのみならず、引いては不妊治療に繋がっていくと考えます。

そのためにご自身でできることは疲れを溜めないことです。夜はせめて日付を越さないうちに就寝しましょう。昼間の活動量と睡眠のバランスが取れて、翌日に疲れを持ち越さないようにすることが目標です。せっかく不妊治療に専念するためにパートの仕事に転職したにもかかわらず、疲れがあまり改善していないことを考えると、体をしっかりと休めてあげられていないように思いますので、今一度生活習慣を見直してみましょう。

またストレスのせいもあるかと思いますが、昔から気血の巡りがかなり良くないことが体にとっては疲れに繋がってきます。毎日少しずつでも時間を作って手足をしっかり動かしながら歩くなど運動することをお薦めします。まずは休みの日に散歩するとか、職場まで歩いて通勤するなど、○○さんにとって全身を動かしてあげることはとても効果が高い養生になると思います。散歩は景色を見ながら歩けばストレスを解消して気分的にリラックスでき、気血の巡りを良くして手足の冷えも改善してくれるでしょう。ストレスを引きずらず、体がリラックスできるようになるといいですね。