弁証論治:

0175:不妊アトピーの弁証論治

症例集→ストレスで食欲亢進、アトピー悪化、自然な妊娠がしたい(36歳出産)【case:0175】

・問診
体重66キロ 身長163センチ パート 主婦 33歳

主訴 不妊 アトピー

主訴は小学校にあがるころよりおこり、イライラしたときや季節の変わり目、春、夏につらい。ストレスがたまっているときや家事が順調にこなせていないときに症状が悪化する。

大人に成ってからは調子がよかったが、このところは大人に成ってからの中では調子が悪い状況が続いている。3年ぐらい前から仕事が忙しくなってきたのと、食生活の悪化が原因ではないかと自分では思う。

病院ではアトピーと診断されたが、一般的な皮膚のごわごわして肘や膝の裏に症状が強いタイプのアトピーではなく、吹き出物の様な赤い発疹(小さな円形の発疹)を伴った皮膚のざらつきのある湿疹が全身にひろがっている。吹き出物場状の発疹は状態がよくなってくると枯れてくる。悪くなると新しいのがでる。時に髪の毛の生え際などが発赤を伴う。どちらかというと四肢末端部よりも体幹部が症状の中心。お腹、背中などにも吹き出物状の発疹がある。

かゆみと同時に、口渇、夕方のむくみ、からだのだるさ、ふらつき、耳鳴り(高温)

顔の吹き出物が増えた

29才の頃、健康診断で胸腺腫がみつかり手術をしている。

いつも物静かにニコニコされていて、言葉少なである。しっかりとした穏やかな印象

・・普段の状況について、

悪化 春、季節の変わり目、深夜、肉体疲労時、睡眠不足

良好 クーラー 冬 朝 入浴中

食欲について17才ぐらいの時と同じぐらい大食

20-22才ぐらいは小食だった。大学生でストレスもなく気楽な生活だったからだと思う。

就職してからはストレスで食欲↑

食事は規則的、食べるのは遅い 空腹感はあり、食事は美味しい

腹脹胸焼けはめったにない。

よく食べるのは玄米、豆腐、人参、えび。

間食はよくとる。

タバコは29才まで、飲酒は毎日

飲み物は700ccぐらい

口は常に渇く

口が粘ることがよくあり、いつもフリスクなどを食べる

大便は毎日、年に1回ぐらい出ないときは、オオバコとセンナを飲む。

便は量が多く繊維の量も多いと思う。

出きらないことは時々、付着することは時々、焼き肉の次の日は臭う

小便は1日7回、残尿感などはない、色は黄色 夜間尿は飲酒がすぎたとき

睡眠は2時に寝て9時におきる。

寝つきは悪く、夢をよくみる、寝起きは悪い。疲れがいつも残る。(30才ぐらいから)

・・婦人科について

20代の頃より、生理周期は35から37日型で6日間

生理前の2,3日前から胸の張り、イライラがある。前日に便秘がする。足の付け根がだるい、生理がくると徐々に高温期に出ていた症状はおさまる。

生理初日に生理痛がある、鈍痛程度。

生理の色は出血したときの色、濃血。量は普通 生理が来ると食欲がまし焼き肉に行きたくなる。

27才から妊娠希望 不妊治療は受けたことがない

・時系列の問診

子供の頃からアトピー
 減感作療法と、中高生の時に部活で汗をかいたことがが自分ではよかったと思う。
 20才ぐらいまでにだいぶ軽減した。おとなになってからはだいぶよい。
 大人になってからの症状は、春夏花粉が飛び出すとアレルギーがすべて悪化し、
 涼しくなって落ち着く。昼閒はOKだが、夜になって寝ている間にかいてしまう。

17歳頃ー食欲が↑

20才体重55キロ  大学生でストレスがなかった 食欲↓

23才、就職、一人暮らしになって体重増加62キロ 食欲↑

27才結婚

29才 胸腺手術
   たばこをやめて体重が66キロ(現在)へ
   仕事がだんだん忙しくなり、食生活も乱れアトピーが悪化し始める

30才ぐらいから、寝つきは悪く、夢をよくみる、寝起きは悪い。疲れがいつも残る感じになる。

33才 春ぐらいから、いままでなかった手首の周りを含めて、首、背中など悪化

・体表観察

・・脉診
左関上輪郭があまい
右寸口浮いている

・・舌診
舌 淡紅から淡白 中央部が黄苔
歯痕胖嫩、
戦アリ、
舌裏怒脹あり

・・腹診
肝の相火左アリ、
裏肝の相火ややアリ(腰痛なし)
季肋際つまり
下脘奥に冷え、動き悪い
関元奥に冷え
小腹急結 ややあり、下の方に塊の感じ

・・切経経穴診
左右とも前腕が張っている感じ(心包経のつっぱり感)
右内関陥凹
左列缺こそげ
尺沢 冷え
太淵右発汗
左外関冷え動きが悪い
間使 固くて動きが悪い
神門 右 硬結動きが悪い

左然谷冷え
左湧泉冷え
復溜冷え
申脈冷え
左太衝 冷え動きが悪く固まっている感じ
臨泣 右つまり 左右とも動きが悪い
大腿胆経突っ張り
左公孫ややこそげ
三陰交ややこそげ 左は冷え
右足三里奥にやや冷え
陰陵泉つっぱり

・・背候診
神道奥に冷え
右の心兪陥凹発汗
右の督兪 陥凹発汗
左胆兪(トップ)、左脾兪、左胃兪 抜け陥凹3穴とも少し外に流れている
三焦兪 抜け陥凹 左>右
大腸兪 抜け陥凹 

・五臓の弁別

・・肝
イライラで症状悪化(アトピー)

いつも物静かでニコニコ

・・心

痒みと同時に、顔の吹き出物、ふらつき、口渇
胸腺腫の手術
口が常に渇く、口が粘ることがよくある

・・脾

季節の変わり目に症状悪化(アトピー)
食生活の悪化でアトピー悪化
かゆみと同時に口渇
間食をよくとる
17才ぐらいの時と同じく大食
便が出きらなく付着することが時々ある
生理が来ると食欲がます(焼き肉が食べたい)
一人暮らしで体重アップ、たばこをやめて体重アップ

・・肺

29才までタバコ
春先から涼しくなるまでアトピー悪化
今年の春ぐらいから今までになかった手首周りにアトピー、首背中なども悪化

・・腎

痒みと同時に夕方のむくみ、だるさ、耳鳴り ふらつき、
寝つきが悪く、夢をよくみて寝起きが悪い、疲れがいつも残る
夜になって寝ている間にかいてしまう

・・瘀血

胸腺腫の手術
生理の前に足の付け根がだるい、

・病因病理

小さい頃から続くアトピーと呼ばれる症状と、なかなか妊娠出来ないということが主訴である。

アトピーは一般的な症状ではなく、吹き出物状の赤い小さな円形の発疹を伴ったものでできはじめは発赤しており、よくなると枯れてくる。吹き出物状のモノがない部位はざらついて荒れており時に発赤がある部位(髪の毛の生え際など)がある。

17歳頃は食欲がぐっと増していたが、大学生にかけて食欲が落ち着きアトピーもぐっとよくなった。今思うと、大学生の頃はなにもストレスのない楽しい生活だったと思うとのこと。その後就職しストレスがぐっとまし、食欲が↑、体重がアップしている。アトピーはさほどわるくならずに小康状態が継続。

もともと皮膚表面になんらかの原因で熱がたまりやすく、熱が落ち着くと少し枯れてくる。身体上部の頭部などは熱がたまりやすいのか、発赤なども出やすい。ストレスが直接的に胃熱を亢進させ食欲がアップし、体重がアップするタイプである。体重アップしてもアトピーが悪化はしていない。体重の増加が内湿の増加には直接的にはつながっていなかったと思われる。体重増加があるものの悪化せずに大人に成って落ち着いた皮膚症状は、仕事で多少のストレスはあるものの小康状態を保っていた。

結婚によって、ストレスがまし、29歳の胸腺手術からたばこもやめたことで、肝鬱はより発散しどころを失っていったのではないかと思われる。このため胃熱がより亢進して体重がアップ。仕事が忙しくなったことで腎気にも負担となり、より肝鬱は亢進。寝つき寝起きが悪くなり、だるさも亢進、ふらつき、高温の耳鳴り、足のむくみと出現。腎虚がまし、肝鬱がよりひどくなっていったと思われる。そして3年後の現在、手首まで症状が出現する様になっている。

胸腺腫の既往も、上焦に熱をもちやすく、肝鬱がきついことが関与している可能性がうかがわれる。そこからさらに腎虚肝鬱がよりきつい状態が3年あまり継続したため、手首の末端にまで内熱がおこりやすくなっていったのではないかと思われる。手首という関節の部位に出現し始めたことで、長く続く腎虚肝鬱の状態によって内湿も生じ始めている可能性も伺える。

生理が来ると、それまでの高温期にあったイライラなどの症状は納まる。一定の肝鬱が払われリセットされていると思われるが、すぐに胃熱は亢進し食欲が増す状況になっている。

・弁証論治

弁証 腎虚肝鬱 胃熱

論治 益気補腎  疏肝理気

・治療指針

腎気の根をしっかりさせ、胃熱、内熱の納まりどころをつくる。
場合によってはきつい肝鬱を少しすかす。
食欲が亢進しがちなのは、ご本人のセーブをお願いする。

・治療経過

33歳(2012)初診から週に1度で鍼灸治療継続

半年後、風邪の内陥が抜け、体調が少し落ち着いたので病院受診を進める。

1年後、リューブリンを使いそののち子宮筋腫摘出手術

そののち、タイミング、人工授精と進む(夫の希望)

2年半後、採卵新鮮胚移植、妊娠出来ず。

採卵ー2つ凍結胚が出来た。移植ー妊娠ー順調に経過。

無事に女児を出産(36歳)。

おめでとうございます。