弁証論治:

0038:卵子提供しかない?~出産弁証論治

症例集→体外受精25回、卵子提供を薦められている(38歳出産)【case:0038】

・問診
38歳の女性、卵子提供しかないのではと言われた中、25回にわたる採卵、4回の移植をなさったなか、1年にわたる鍼灸治療ののちの移植にて妊娠、出産に至った症例です。

38歳女性 身長158センチ 体重52キロ 専業主婦

この2,3ヶ月朝起きるときに腰が痛い

(他に問診票記載なし)

・・普段の状態について

食欲は普通、20代のころより変わりなく、30分以上をかけて食べる
空腹感はよくあり、食事はおいしい。食べ過ぎたときに胸焼けがすることが時々
間食は毎日
飲酒は週に1,2度 水分は毎日900ccから1200cc程度(水や珈琲)
口や喉が渇いたり違和感があることはめったいにない(風邪を引いたときぐらい)

大便は1日1回バナナ状や軟便、量は多い、便器に付着することはめったにない
小便は1日7,8回 眠れないときやアルコールや水分をとったときに夜トイレに起きる

寝付きは普通、夢をよくみる、寝起きは普通、疲れが翌日に残ることはめったにない

・・婦人科の状況

30歳の時に重い生理痛にて婦人科受診
子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣のう腫を開腹手術
生理初期にいつも下腹部に鈍痛がする
生理1日目から疲れだるさ、この1年ぐらいは右肩と首の付け根が痛くなる
 (右肩肩井部に奥に刺さるような感じの痛みが来る)
生理の量は異常に多い 小さな塊がまじる。
非常に緊張感が強い、
毎回の採卵の時は、看護婦さんに手を握ってもらって耐えている

・時系列の問診
20代後半 生理痛がきつくなり、子宮内膜症が重くなっていった

30歳 子宮筋腫、卵巣のう腫の手術
   治療のため生理を止める

31歳 不妊治療のため体外受精を希望するも無理だと言われる。
   (卵子提供をすすめられる)

33歳 新宿加藤レディースクリニックにてIVF-ET(体外受精ー胚移植)をすすめる

35歳 夏ですごく疲れていた。顔が腫れて蕁麻疹が出る(ほほの赤みは1日で引く)。
   エリトマトーデスの疑いがありということで経過観察となる。

33歳から38歳までの5年間で25回にわたる採卵、4回の移植を行うも妊娠出産にいたらず。

37歳 生理がくると右肩奥の痛みがくるようになった

38歳 5月からウオーキングをして腰痛が発生 一週間休んでもウオーキングを再開すると
   腰痛が出る。とくに朝起きたときに腰が痛い

38歳 7月ビッグママ治療室 受診

・体表観察

・・脉診
脈全体が細く、弱く輪郭が甘い 左中位から浮位で弦脉

・・舌診
舌辺に瘀斑が点々としている 舌裏怒脹アリ、歯痕胖嫩

・・腹診
脾募あり、左季肋部めくれ、中脘奥に冷えがあり、下脘抜け 中注奥に抜け 少腹急結左右ともアリ

下腹に大きな手術痕(気海から関元)動きが悪い、固い。

・・経穴診
右の列缺こそげ
左の三焦兪を根にして左胆兪までじゃらじゃらとした感じが続く
右の神門 緩みの中に筋張り
右の後谿冷え、小さく深い 陥凹
右の外関 陥凹
左復溜 冷え
右の臨泣やや冷え
左太衝 陥凹
左公孫 陥凹こそげ

・・背候診
陶道脇左右冷え、発汗
左肺兪陥凹
左三焦兪 亀裂中がじゃらじゃら
右三焦兪 亀裂
左胆兪陥凹 奥に筋張り
左右次髎つまり
左脾兪 中がじゃらじゃら
左胃兪中がじゃらじゃら

・五臓の弁別

・・肝
20代のころから生理痛がひどく、子宮筋腫、内膜症、卵巣のう腫の手術を受ける
生理の量が異常に多く、小さな塊がまじる
脈 左中位から浮位で弦脉(初診で非常に緊張)
舌辺に瘀斑が点々としている 舌裏怒脹アリ
 少腹急結左右ともアリ
右の臨泣やや冷え
左太衝 陥凹
左胆兪陥凹 奥に筋張り
左右次髎つまり
生理がくると右肩肩井部に奥に刺さるような感じの痛みが来る(この1年)

・・心
右の神門 緩みの中に筋張り
右の後谿冷え、小さく深い 陥凹

・・脾
水分は毎日900ccから1200cc
脾募あり、左季肋部めくれ、中脘奥に冷えがあり、下脘抜け
左公孫 陥凹こそげ
左脾兪 中がじゃらじゃら
左胃兪中がじゃらじゃら

・・肺
右の列缺こそげ
陶道左右脇冷え、発汗
左肺兪陥凹

・・腎
この2,3ヶ月(ウオーキングを始めてから)朝起きると腰が痛い
アルコールや水分を取りすぎると夜トイレに起きる
20代のころから生理痛がひどく、子宮筋腫、内膜症、卵巣のう腫の手術を受ける
生理1日目にだるさ
生理の量が異常に多く、小さな塊がまじる
中注奥に抜け
左の三焦兪を根にして左胆兪までじゃらじゃらとした感じが続く
右の外関 陥凹
左復溜 冷え
左三焦兪 亀裂中がじゃらじゃら
右三焦兪 亀裂
生理がくると右肩肩井部に奥に刺さるような感じの痛みが来る(この1年)

・・気虚
35歳夏の疲れで顔に蕁麻疹が出来、エリトマトーデスの疑いで経過観察
脈全体が細く、弱く輪郭が甘い 、歯痕胖嫩

・・瘀血
20代のころから生理痛がひどく、子宮筋腫、内膜症、卵巣のう腫の手術を受ける
生理がくると右肩肩井部に奥に刺さるような感じの痛みが来る(この1年)
生理の量が異常に多く、小さな塊がまじる
舌辺に瘀斑が点々としている 舌裏怒脹アリ
少腹急結左右ともアリ

・病因病理

20代後半より、子宮内膜症が悪化し、生理痛がひどく子宮内膜症、子宮筋腫、卵巣のう腫など骨盤内臓器の開腹手術を30歳でしている。手術後、排卵月経に伴う子宮内膜症の悪化を防ぐため、ホルモン剤の投与を受け、生理を止めた。このホルモン治療により卵巣機能が低下し、31歳のときに卵子提供でしか子どもは望めないという医師の見解へと繋がった。 32歳より、不妊治療専門クリニックにてIVF-ET(体外受精ー胚移植)を行うも、 生理を止めたホルモン剤の影響は強く年齢が30代前半から30代半ばであったのに、38歳の時点で25回にも渡る採卵数であったのに、4つしか受精卵は出来ず、せっかく出来た受精卵を移植するものの妊娠が継続するにいたっていない。 手術にいたった子宮内膜症は、症状としては現在はそれほど強い痛みなどを伴ったものではなくなっている。しかしながら 少腹急結が左右ともあり、臍下の中注も奥に抜けを感じ、任脉上の中脘も奥に冷え、下脘が抜け。また臍下の気海から関元に続く大きな手術痕は、下腹全体の動きの固さと相まって骨盤内臓器ならびに腹腔全体の気血の巡りの悪さを感じさせる。

問診状からは、あまり素体の弱さなどを示す状況は示されていない。しかしながら、35歳の時に夏の疲れからエリトマトーデスを疑われるような状態になったり、この1年ぐらい、生理がくると左肩の奥に刺すような痛みが発生するという状況は、腎気の支えが弱くなると瘀血様の症状や内熱の症状が全身問題として発生していることを示している。また、最近健康のためと始めたウオーキングによりかえって朝の腰痛を発生することにつながっているのも、腎気の支えの弱さがあり、負荷がかかると却って腎気に負担となっていることを示している。

つまり、少しの負荷があると、腎気は支えきらず気滞がぐっと強くなってしまうと。舌裏の怒脹、舌辺の瘀斑もあり、腹腔内を中心とする瘀血の存在は、腎気の支えが弱くなったとき生じる気滞が長期間にわたっているために全身の問題へと波及していることをしめしている。問診状からは、弱りを示すような状況がなくとも、20代後半からの骨盤内臓器における瘀血の状況は、腎気の弱さから生じた瘀血であったと考えられる。

初診時の強い緊張感、また病院での採卵時のエピソード(手を握ってもらいながら採卵している)など、ご本人が精神的に強い肝鬱をもつことも腎気の弱りより生じた気滞をより強くしていく要素であると考えられる。専業主婦であり、無理の無い生活をおくっているので、翌日に疲れが残るようなことはなく、2便、睡眠の状態はよいものの、背部兪穴では左の三焦兪を根にして左胆兪までじゃらじゃらとした感じが続くこと、上背部の陶道を中心とする冷えや発汗などの上焦の弱り、左脾兪胃兪に見られる中焦の弱り、三焦兪を中心とする下焦の弱り舌の胖嫩、脉診で脈全体が細く、弱く輪郭が甘いなど全身の気虚も明瞭で存るが、その中心は、左右三焦兪の亀裂、運動をしてすぐに腰痛が出ること、下腹を手術で大きく手を入れていることなど腎気の弱さであることを示している。

・弁証論治

弁証:腎虚 肝鬱瘀血

論治:益気補腎 疏肝理気

・治療指針

子宮を中心とする下焦の腎気をあげる。
 肝鬱が強ければ適宜払い、腎気への負担を取る。
 現時点で瘀血を中心とする治療は主軸にしない

・生活提言

卵子提供しかないと言われながらも、この5年本当によく頑張っていらっしゃいましたね。 卵巣の状況が非常に悪いながらも年齢がまだ30代と言うこともあり、採卵受精できた卵は胚盤胞にもなっています。このせっかく出来た受精卵を大事に移植し、妊娠出産に至れるようにしていきたいと思います。

このためには、まず、採卵できている今の状況では採卵を優先し、一つでも多くの受精卵を作ることを考えていきましょう。過去の状況でも採卵できるのは数が少なく、また移植したあとは特に採卵が難しくなっています。年齢的に採卵が出来る時間が残り少なくなっていますので、ご本人の『ここまでやったら納得が出来る』という状況までまず採卵を続けてはいかがと思います。

移植に関してですが、過去になんとか着床までは進むことがあったようですね。

いまの下焦の状況は支えとなる腎気が弱いために少しの負担でも過度な緊張感をもちやすくなっており、それが妊娠自体の難しさ、そして妊娠の継続の難しさへと繋がっています。

採卵を続けながら、この下焦(下腹部)の力を充実させていきましょう。毎日のお灸、棒灸などがとても効果的です。少しづつ続けていきましょう。

・治療歴

2009年7月初診
初診より48診、ホルモン補充周期(HR周期)にて妊娠
1回目の判定日hcg15.0
無事に2011年5月出産 おめでとうございます。