弁証論治:

0050:不安が強い不妊の弁証論治

症例集→不妊治療の通院による不安感からの回復、出産(31歳出産)【case:0050】

・問診
31歳2011年3月 ビッグママ治療室受診

初診から4ヶ月後(20診)、生理の量が前より多くなった、高温期長くなり、生理は5日ですっきり終わる。

初診から6ヶ月後 自然妊娠
以降、週に一度のペースで鍼灸治療

妊娠6週、初診時の落ち込みとは違うタイプの落ち込み、夕方頃や食事後に落ち込み、それに伴って、軽い動悸の様な焦りのようなものを感じる。

  →食事指導ーチーズやナッツや鶏肉を食べるようになってから、だんだんと不快な症状が消えていき、精神的にも落ち込みがなくなった。

2012年 4月 3000グラムオーバーの女の子を無事に出産
おめでとうございます(^^)!

31歳女性 パート パート 身長167 体重58
2011年3月ビッグママ治療室受診

・・主訴 不妊、ホルモンバランスが悪い(生理が早く来る)、肩こり、不安が強い
働くようになってから出現。最近は落ち着いてきたが、体調がよくないと不安が強く、心理的に落ち込む。夕方や、イライラしたときに出現。

今回は2010年に子供が欲しいと思い、病院に行き始めた途端に 体調が悪くなり、高温期が短くなり生理周期が狂った。

口渇や体重の減少、多夢など出現

・・ふだんの状態について

季節の変わり目、梅雨、朝、睡眠不足、旅行の後に体調が悪い

入浴、春夏秋冬クーラー暖房、昼夕深夜など体調がよい

食欲は普通規則的早食い、空腹感はよくある、噛まない、美味しい、
お腹が張ることはない。間食はよくある。
飲酒は月に4,5回水分は600ccぐらい。

舌が時々乾く。

大便は1日1回 バナナ、量は多く、付着することはない。
小便は1日6回 残尿感は時々、尿切れが悪いことは時々 時々黄色い

寝付きはよい、夢をよくみる、寝起きは悪い。疲れが残ることが時々。

・・婦人科について

生理の高温期に体調がわるくなり、低温期によくなる。

不妊治療をはじめて、心理的に落ち込むような状態になってから
  生理の量が少なくなった。高温期も短くなってしまった

最近生理周期が早い(もともと25,26日)生理は6,7日間

生理前に吐き気がする。

生理は出血した色の血液、一日2日目が多い

卵管造影はok、ホルモン検査で黄体機能不全といわれた。

病院でタイミング指導を2回受けたが、このときから高温期が短くなり体調が悪くなった。 ストレスなどで生理周期が乱れることがある(短くなる)

排卵は周期的にあるが、病院では高プロラクチン血症といわれた

・時系列の問診

29歳 結婚
  もともと生理周期は25から26日
31歳10月 妊娠を考える
体調が悪化、高温期が短くなり生理周期が短くなった。

31歳3月 ビッグママ治療室受診
初診から4ヶ月後(20診)、生理の量が前より多くなった、高温期長くなり、生理は5日ですっきり終わる。
初診から6ヶ月後 自然妊娠
妊娠6週、初診時の落ち込みとは違うタイプの落ち込み、夕方頃や食事後に落ち込み、それに伴って、軽い動悸の様な焦りのようなものを感じる。
→食事指導ーチーズやナッツや鶏肉を食べるようになってから、だんだんと不快な症状が消えていき、精神的にも落ち込みがなくなった。

・切診など

・・脉診
左関上やや弦

。。腹診
中脘動きが悪い
中注 冷え
関元冷え
左少腹急結 きつい

・・舌診
歯痕あり、戦、怒脹アリ

・・経穴診
左右列缺ややこそげ
左合谷陥凹
右神門やや腫れ 中に硬結
左内陥陥凹
左臨泣冷え
左陽陵泉 陥凹
左公孫陥凹大きい
三陰交筋張り奥に冷え
陰陵泉張り

・・背候診
大椎やや冷え
左肺兪陥凹 左膏肓陥凹
左胃兪陥凹
左三焦兪陥凹
左右腎兪陥凹

・五臓の弁別

・・肝
夕方やイライラしたときに肩こりなど体調悪化
体調がよくないとき、心理的に落ち込むと生理が早く来る
子供を欲しいと思ったことがストレスとなり体調悪化、高温期短く、
  生理の量へり、生理周期早い、夢をよく見るようになる。

旅行のあとに体調が悪化
高温期に体調悪化、低温期によくなる。
最近生理周期が早い(もともと25,26日)生理は6,7日間
ストレスなどで生理周期が乱れることがある(短くなる)

脈左関上やや弦
左少腹急結 きつい
舌、戦、怒脹アリ
左臨泣冷え
左陽陵泉 陥凹

・・心
体調がよくないとき、心理的に落ち込むと生理が早く来る
子供を欲しいと思ったことがストレスとなり、夢をよく見るようになる
右神門やや腫れ 中に硬結
左内関陥凹

・・脾
子供を欲しいと思ったことがストレスとなり体調悪化、高温期短く、
   生理の量へり、生理周期早い体重減少、口渇がでる
季節の変わり目、梅雨に体調が悪い
生理前に吐き気(肝気が脾気に横逆した可能性)
中脘動きが悪い

左公孫陥凹大きい
三陰交筋張り奥に冷え
陰陵泉張り
左胃兪陥凹

・・肺
左右列缺ややこそげ
左合谷陥凹
大椎やや冷え
左肺兪陥凹 左膏肓陥凹

・・腎
夕方やイライラしたときに肩こりなど体調悪化
体調がよくないとき、心理的に落ち込むと生理が早く来る
子供を欲しいと思ったことがストレスとなり体調悪化、高温期短く、
   生理の量へり、生理周期早い、夢をよく見るようになる、体重減少、口渇がでる
朝、睡眠不足の時に体調が悪化
小便は1日6回 残尿感は時々、尿切れが悪いことは時々 時々黄色い
寝付きはよいが、夢をよく見て寝起きが悪い、疲れが残ることが時々
高温期に体調悪化、低温期によくなる。
最近生理周期が早い(もともと25,26日)生理は6,7日間

中注 冷え
関元冷え
左三焦兪陥凹
左右腎兪陥凹

・・気虚
歯痕あり

・病因病理

31歳の女性。

不妊と、ホルモンバランスが悪い(生理が早く来る)という訴えである。

赤ちゃんが欲しいという希望のための病院受診であるが、かえって精神的に強いストレスとなり、肝鬱から心熱の亢進となり夢をよくみ、口渇も出た。肝の鬱熱により生理の周期は短くなった。また強い肝鬱は脾胃を押さえつけ機能を低下させ体重が減少、生血の不足をまねき、生理の量も減少したと思われる。

便通や体表観察から内湿をうかがわせるような状態ではないが、季節の変わり目、梅雨などの体調悪化などがあり、朝も陽気の立ち上がりが悪く体調が悪い。また、左の少腹急結、舌裏の怒脹からも血の巡りが悪くオ血の状態へとの変化を思わせる。

肝鬱が、心気へすぐに波及し、生理の量、体重と身体の器質的な部分へもすぐに直接的に影響を及ぼすという状況は、肝気を支える脾気、腎気の弱さが伺える。強い肝鬱が先か、脾胃の弱りが先かは判然としないが、高温期に吐き気がしてしまうように強い肝鬱と影響を受けやすい脾気、腎気により、内湿やオ血が生じやすく、また内湿やオ血の存在が全身の気機を悪くするという悪循環を招いている。

精神的な不安定さは、肝鬱の強さと、それが心へと波及し心熱になること。そして心熱により肝陰不足となり、腎陰を中心とする腎気への負担となる。逆に言えば、肝陰腎陰を中心とする肝陽の根となる肝腎の弱さが全体の不安定さを招いているとも考えられる。

現時点で、左関上のややある弦脉、神門の硬結など肝鬱を示すものもあるが、それほど強い肝鬱をしめす体表観察上の問題点は感じられない。しかしながら、中脘は動きが悪く中注の冷え、関元の冷えと腹部全体の勢いのなさ、動きの悪さを感じる。温養が不足し脾気そのものが暢びやかさの不足を思わせる。また腎兪の陥凹、左三焦兪の陥凹、関元の冷えなど腎の陽気を中心とした腎気不足は強く示されている。また、肺兪、大椎、合谷の陥凹から風邪の内陥の可能性も高く、肝鬱を強くしている可能性がある。

脾気、腎気の弱さと、内湿などを中心とする内生の邪、風邪の内陥が気機のスムーズな升降出入を妨げ、強いストレスが加わると、熱が籠もりやすくなり心熱へと波及しやすい。また、精神的な問題さえなければ、それなりに器のバランスが取れている状態が、心理的なストレスが一旦発生すると、器へもすぐに、直接的に影響しやすいという状況は、器そのものの小ささと、不安定さが考えられる。

・弁証論治

弁証:肝鬱 腎陰を中心とする腎虚

論治:疏肝理気 益気補腎

・治療指針

第一に腎陰を中心に養い、器を安定させる。また、強い肝鬱を 調整し、全身への負担を軽減し、器をより養いやすくしていく。

第二に、肝気と腎気の調和がとれ、器がある程度安定したところより、脾気を高め より器の充実をはかる。

・治療経過

鍼灸治療が始まり、体調が落ち着いた後、妊娠に至った。

妊娠が成立後、食事のあとに非常に強い眠気を感じ、夕方になると、精神的に落ち込むような状態となった。器が小さく気虚気味であったため、妊娠により生命力が腎へと集中すると、全身の気虚がすすみ、脾気へ生命力が集まる食後には眠くなり、疲れがでる夕方には心気も養えなくなってきたのだと思われる。食事の方法をかえ、脾気に1度に負担にならないように、ゆっくりと消化吸収が進むようにアドバイスすることにより、全身の生命力の偏在が小さくなった。

全身の生命力不足である気虚が根底にあるため、なにかに負担がかかると、全身への問題と波及しやすいと思われる。とくに心気の問題が、全身の問題とリンクしやすい状況は、ご本人の生活にも影響が大きいと思われる。